みつめる

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 それでもほたるちゃんは折れなかった。以前とは別人のような暗い雰囲気を纏っているのに、彼女はそれでも主人公のままだった。胸を焼く焦燥感に突き動かされて、私は次の手を打った。彼女が主人公の座を降りてくれるまで何度も、何度も彼女をいじめてもいい雰囲気を作り出した。  担任の先生も口出しが出来ないように交渉した。先生は昔からほたるちゃんをいやらしい目で見ていたから、隠し撮りした写真を渡したら何でも言う事を聞いてくれた。クラスの誰かがほたるちゃんをかわいそうと感じていると分かれば、彼女の次はあなたかもと、彼女を庇った人間が次の標的になる雰囲気作りをした。  結局、最後までほたるちゃんは折れなかった。折れてくれなかった。  だから、最後の手段を取る事にした。  昔、ほたるちゃんと一緒にかくれんぼをして遊んだ時、押し入れの中やクローゼットの中に入るのを過剰に怖がっていたのを知っている。重度の閉所恐怖症で、想像するだけでも呼吸が少し乱れる程だ。  掃除用具入れの中から過呼吸になった彼女の音が聞こえた時、ここで助ければ、また彼女は主人公の座に居座り続けてしまうと感じ、私はその場から逃げ出した。すると、一緒に居た他のみんなが私の後ろについて来るのを見て、なんだか自分がみんなを率いている主人公の様に思えた。  過去の記憶が洪水の様に頭の中に流れ込んでくる。思い出したくもない禍々しくて気持ちの悪い感情に吐き気がした。  何秒、何分、記憶の中に居たのか、気付けば娘が居なくなっていた。思考がまとまらず、頭に靄がかかったような感じがする。  バンッ!バンッ!  娘の部屋の方から音が鳴り続けている。  ふらつく足元に注意しながら娘の部屋に向かうと、徐々に壁を叩く音は弱弱しくなっていく。部屋の前に立つ頃には、壁を叩く音は止み、代わりに奇妙な音が聞こえてきた。  ヒュー、ヒュー、  部屋に入ると、どうやらその音はクローゼットの中から鳴っているようだった。娘の姿が見当たらず、嫌な想像が脳裏をよぎる。  急いでクローゼットを開けると、娘が中で体育座りをしたまま、きょとんとした表情でこちらを向いている。それを見た途端、安心で全身の力が抜けてしまい、思わず涙が溢れそうになるのを堪えて娘を抱きしめた。  その時、直感的にそれが娘では無いことを理解した。 「・・・ほたるちゃん?」
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