みつめる

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 朝、テレビを見ていると、母親が娘を自分の娘では無いと殺害し、逮捕されたというニュースが流れてきた。母親の名前には覚えがある、確か、小学生の時の同級生に同じ名前の子が居たはずだ。  ある事件が起きてから、仲の良かったクラスメイト達の雰囲気は最悪なものになり、卒業後はいくつかのグループに分かれて別々の中学校へと進んだ。  その結果、幼い頃から関係が続いているのは二、三人のみで、現在、誰が何をしているのかなんて分からないし、名前すら思い出せないクラスメイトも少なくはない。  なんだか朝から嫌なものを見てしまったと、少しだけ落ち込みながら家族の朝食の準備をする。それからしばらくして、ある事に気付いた。いつもなら既に学校に行く準備を済ませた息子が朝食の催促をしてくるのに、今日はまだ部屋から出て来ていない。  これまで一度も寝坊なんかした事がないので、もしかしたら風邪でも引いて起きられないのではと心配になり、部屋に向かった。  ドアをノックして呼びかけても反応がなく、これはよっぽどだと思いドアを開けると、その異様な光景に思わず声が漏れてしまった。  カーテンを閉め切った薄暗い部屋の隅で、虚ろな表情をした息子がクローゼットの前に座り込んでいた。  それ以来、息子が不意にどこかを見つめる事が多くなった。
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