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最近、少し困っている事がある。今年で七歳になる娘が時折、壁や天井をじっと見つめて動かなくなる時が多い。何か気になる事でもあるのかと尋ねても何も教えてくれない。
その事について夫とも話したが、幽霊でも見えているんじゃないか、なんて冗談ぽく言われるだけだった。
食事中やテレビを見ている時、外で買い物をしている時も、娘は不意に立ち止まってどこかをじっと見つめる。もしかしたら病院で診てもらったり相談した方が良いのではないかと思い始めた頃、家事をしながら娘の様子を観察していると、ある事が分かった。
娘の視線の先にあるもの、それは、娘の自室だった。
それに気付いた瞬間、
バンッ!バンッ!
娘の部屋から、壁を叩くような大きな音が聞こえた。
急な物音に心臓が飛び跳ね、体が硬直してしまう。
「ほたるちゃん、ママに会いたいんだって」
娘のその一言に、全身が粟立った。
私が小学生の頃の話だ。その小学校は一学年三十人程の小さな学校で、クラスメイトはみんな幼稚園から一緒に過ごしていた事もあり、みんな家族の様に仲が良かった。そんなクラスの中心には、いつもほたるちゃんが居た。容姿端麗とか才色兼備、文武両道、そんな言葉が似合う女の子だった。更には人一倍優しく、明るくて元気な彼女の姿は多くの人を魅了した。
小学四年生の時、ある社会人男性が中学生とラブホテルに入っていく姿が目撃されたという噂が町中を駆け巡り、小学生だった私たちの耳にまで届いた。普段であれば、小学生の私たちがそんな噂で盛り上がる事は無いだろうが、私たちのクラスの話題はその噂でもちきりになった。
その社会人男性というのが、ほたるちゃんのお父さんだと言われていたからだ。
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