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雨が降り、風が吹き、私は再び砂に埋もれてきた。雨が降り、風が吹く。青い空、あかね色の空、灰色の空。移り変わる景色を眺めているのは、嫌いじゃない。けれど、誰にも顧みられずに錆びていくのは、悔しかった。
あの子は来ないかな。はるなと呼ばれたあの子。今何をしているだろうか。
そんなことを考えていると、私のすぐそばを、丸い塊がものすごい勢いで飛んでいった。黒と白の二色で、まだあまり砂利に染まっていないボールだ。
ばたばた、ざくざく、と砂を駆ける足音が続く。砂埃が立つ。
「うおお、そっちいったぞ! あ、ゆうきの後ろ!」
「けんとお、変なほうに蹴るなよお」
二人の少年が声を枯らしながら素早く動く。ボールを追いかけているのか、ボールを弄んでいるのか、私にはわからなかった。
ボールと少年たちが遠ざかった。砂をこする音が遠くで聞こえる。動かずにじっと聞き入っていると、突然私の体の上を、何かがぶつかっていった。その何かは、私の上で一度跳ね返り、反対側へぴょんぴょん跳ねながら落ちた。
先ほどのボールだ。
「だあからあ、変なほうに蹴るなって言っただろお」
「ごめーん。てか、ボールどこいった?」
「シーソーのほういったかもー」
二人分の足音が近づいてきて、私をひょいと飛び越えた。ボールを拾い上げ、再び二人はボール蹴りに戻っていった。
冷たい風が吹く季節になった。空は一面白で覆われることが多くなった。
枯れ葉が私の体を掠めては舞っていく。裸になった木が寂しげに揺れる。
子供たちの声はない。猫や犬でさえ姿を見せない。聞こえるのは「カーカー」と鳴くカラスの声くらい。
私も真似してみようか、なんて考えるくらいには、暇を持て余していた。
「ほら、りなちゃん、ブランコあるよ」
ふいに聞こえた二人分の足音に一瞬期待するものの、足音の主は私の横を通り過ぎていく。小さい子がよちよちと歩きながら「うー」と発してブランコのほうへ手を伸ばす。大人に支えられながら、その子はチェーンに掴まった。
キーコ、キーコ、とブランコが得意げに音を鳴らす。違う違う、乗っている子が上手なだけ、と私はむくれた。
上手だね、気持ちいいね、と大人がその子に話しかける。上手だね、気持ちいいね、と私も真似して心で唱えた。
その子は小さい足をばたばたさせた。最後は大人に抱きかかえられてブランコを降りた。腕に収まっても尚、その子はブランコを指さして「あー、あー」と声を上げている。まだ遊んでいたいと言っている。私もまだ見ていたいと思う。けれど二人の姿は柵の向こうへ消えてしまった。
再び静かになった。ブランコも未練がましくきい、と音を立てた。
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