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鉄棒で逆上がりの練習をする子がいた。砂場で城を作る子がいた。滑り台をのぼって滑っていく子がいた。おまけに、ブランコやベンチも人気者だ。
私はその横で、じっと見ていた。
今日もあの子は来ない。あの子は──。
──あっ。
髪を高い位置に二つ結んだ、ピンク色の髪飾りをつけた少女。あの子と同じ見た目の少女が来た。
また会えた、と思ったのも束の間。
「ひまり」
少女はその名前に振り向いた。呼んだ本人の元へ駆け寄る。どうやらあの子ではないようだ。名前を呼んだ女性の手を引き、私のほうをゆびさした。
「ママもシーソー乗ろうよ」
「ママも?」
女性は渋々といった様子だ。ひまりが板の一端に座ったのを確認すると、自身は反対側に腰かけた。
「せーの」
ひまりの掛け声で私の体が動き出す。女性のほうは、足を着いたままバネのように伸ばしたり縮めたりしていた。
「ママも小さい頃、このシーソーに乗ったなあ」
「そうなの?」
「うん。なつみと……なつみおばさんと一緒にね」
「じゃあ、ママにとっては懐かしい?」
女性とひまりはそんな会話をしていた。
私にとっても、なんだか懐かしい感じがする。どうしてだろう。
ぎい、ぎい、とリズミカルな音がする。ずっと前から聴きたかった、私の好きな音楽。
女性も音楽に聴き入っているのだろうか、無言で脚を動かしている。が、ひまりを先に下ろすと、自身も脚を引いた。
「……うん、そうだね。懐かしいなあ」
彼女は私を見下ろした。頬がほんのり赤く染まっているように見えた。
「……また会ったな、って思う」
そして私の傍らにしゃがむと、小さい声で「ただいま」と呟いた。
ああ、おぼえている。その瞳を。
キャッキャと笑ったあの子。私の周りをぴょんぴょん飛び回っていたあの子。子犬みたいで、その全てが愛おしかった、あの子。目の前で微笑む彼女の姿が、あの子にぴったりと重なった。
──また会えたね、はるな。
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