その地は「道」となった

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やっぱり旅に出たい!! こうして俺は再び、無一文で旅に出てしまった。 俺は歩いた。 北は津軽、南は薩摩まで旅した。 四国ではもちろん、八十八ヶ所巡りをした。 お金を持たないで日本中の道を旅するのは大変であった。 しかし、不可能ではなかったのだ。 さて、今晩の泊まるところはどうしようか。 俺はその土地の人に話しかける。 「あの……伊勢から参った者ですが……」 「なんと! あのお伊勢さんの伊勢からですか! まぁ、こんなところまではるばる、よくお越しになりましたね」 伊勢という地名を知らない者は、ほとんどいなかった。 なにせ、「一生に一度はお伊勢参り」と言われている。 関所のせいで自由に旅ができないこの世の中で、お伊勢参りは庶民の大きな娯楽でもあったのだ。 お伊勢参りをしたことがある人からは、 「伊勢の人は私のような旅人にとても親切にしてくれました。お陰様でとてもいいお伊勢参りができました。ここで伊勢の方に会うのも何かの縁でしょう。どうか、あの時のお礼をさせてください」 と言って、俺を泊めてくれたり、食べ物を恵んでくれたりすることが多かった。 また、お伊勢参りをしたことがない人からは、 「いつかは伊勢に行ってみたいと思っております。どうか、伊勢の話を聞かせてもらえませんか」 と、これまた親切にしてくれることが多かった。 伊勢に生まれて良かった、としみじみと思うのだった。 こうして、泊まるところや食べるものを工面しながら旅を続けていった。
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