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「自分の道は自分で決められる。俺に殺されたいか、それとも、死が訪れるのを待つかだ」
ぼくは深くため息をつき、突き付けられた瓶から空気を吸った。
親譲りの外見と外面の良さで、小さい頃から何不自由なく暮らしてきた。難なく友だちが作れたし、お遊戯会やではいつも主役だった。小学校に上がれば、毎年山のようなバレンタインチョコとオール5の通知表をもらってきた。
そのはずだった。
だけどぼくは、昨日、オール3の通知表を持ち帰った。生まれて初めて好きな子ができて、授業中、その子ばかり見ていたからだ。そのことを白状すると、父上はものを投げつけて怒った。しかもそれが男子と分かると、隣の家に住んでいるその子を殺しかねないほどに激昂した。それだけはやめてほしいと言ったら、今度はぼくを標的にした。「素直に言えば楽になるぞ」なんて、嘘じゃないか。
そんな父上を母上は止めようともせず、ぼくはさっき、殺されるかご飯がもらえなくなるかという、あの状態になった。
…ん? それはそうとして、今ぼくはどこ?
エンジンの音がする。目を開けても、視界は真っ白だ。
…ああ、ぼくは今、道の途中なんだな。
ほどなくして、エンジンの音が止まった。
ドアが開く。
「降りろ」 手を引っ張られる。父上の声だ。
あっと言う間もなく、ぼくは何かに押し付けられる。そして、鈍い痛みが胸元に走る。
急に明るくなったと思ったら、すぐ目の前に父上の顔があった。父上の声が降ってくる。
「自分の道は、自分で…」
ぼくは最後まで言わせなかった。父上の股間を蹴り、一瞬の隙に包丁を取り上げる。
まだ痛がっている父上に、ぼくはほくそ笑んだ。
「自分の道は、自分で決められる。だからぼくは、自分で死にに行く。父上の手は、汚させませんから」
ぼくは、自分の胸に包丁を突き刺した。
ぼくを産んでくれたのも、幸せにしてくれたのも両親だった。だけど、ぼくに死にたいと思わせたのも両親だったから。
ぼくは、最後まで操り人形だった。
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