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唯花は浩二と真奈の両親と一緒に香港での火災事故に遭遇した。
そして、数か所の火傷を負いながらも無事に帰国することが出来、内藤医院に入院することとなった。
話しは浩二と達也がその見舞いに行った時の事だった。
その時、未だ両親が戻ってこないことで失意の中にあった浩二に向けて唯花はこう話していた。
「ごめんね浩二、お母さんもお父さんも死んじゃって、私だけが生き残って……私、二人と一緒に居たのに何にも出来なかった。
私が二人のいる劇団のショーが観たいってねだり続けて、部外者なのに私だけ香港にまで連れて行ってくれたのに!!
私がしっかりしてたら、こんなことにならなかったのに……二人とも帰ってこれたのに!!」
ベッドから身体を起こして、唯花は傷ついた身体のままで懸命に浩二に謝罪の言葉を告げていた。
痛々しいまでに罪悪感の込められた言葉を、必死になって伝えようとしていた。
未だ頭や腕に包帯を巻いたまま、唯花は涙ながらに後悔の言葉を言い続けていた。
達也はその言葉を黙って聞いていたが、浩二は黙ったりしなかった。
「バカかよ、そんなわけねぇだろっ……お前はさ……一体何様なんだよ。
お前一人頑張ったところで、火災が止められたとでも思ってるのかよっ!
そんなこと出来るわけねぇだろ、俺だって、達也だって出来やしねぇよ!!
そんな簡単に助けられたら……誰も苦労しねぇよ……」
浩二は唯花の言葉を聞いた後で、湧いて出てきた感情そのままに堪らず言い放った。
唯花も被害者の一人であったが、浩二は悲観的になる唯花を立ち直らせるために自分の感情を真っ直ぐにぶつけた。
唯花は……その言葉を聞いてたまらず我慢しきれずに大粒の涙を流した。
「うううぅうぅうぅ……っ、あぁうううっぅぅ……っっ。
ごめん……こうじぃぃ……。いやだったよ……わたし、ひとりで帰ってくるのなんて、いやだったよ……っっ、ほんとだよっああああぁうううぅうぅう……」
病室の中に、唯花の泣きじゃくる泣き声が響き渡った。
それからこの中の誰かが気の利いた言葉が言えたかどうか、そんなこともよく分からなくなるくらい、悲しい気持ちで全員がいっぱいになった。
いつまでもすすり泣く声を出し続ける唯花と、そっぽを向いた浩二の姿が達也にはずっと記憶の中に刻み込まれた。
*
「思い出したか?」
達也は話し終えた後で、浩二に聞いた。
「ああ、唯花が真奈のことを必要以上に面倒見るようになったのは、その時の罪悪感からだった」
退院した唯花は心を入れ替えたように笑顔を見せながら真奈の面倒を嫌な顔一つせず、こなすようになった。
浩二はその心変わりを最初、不思議な目で見ていたが、次第に協力し合うようになると、それが自然な光景に見えるようになり、最初の頃の記憶はどんどんと薄れていったのだった。
「―――唯花の気持ち、大切にすることだな」
達也の言葉に浩二が納得した頃には、学園がすぐそこまで近づいてしまい、二人の真剣な話しはここで終わった。
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