第五話「絶望に枯れる花びら」

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「皆さん、お待たせしました。真奈ちゃんが目を覚ましました」  すべてが終わった頃には、朝日が昇りすっかり朝になっていた。    後、数時間もすれば、病院の通常営業が始まる時間になって、ようやく知枝の処置は終わった。 「もう大丈夫です、一人にさせていただいて感謝します」  待っていた三人を安心させようと、疲れながらも優しく微笑みかける。  さすがに何度かの小休憩は取っていたものの、知枝に溜まった疲労は尋常なものではなかった。  身体に滞留する魔力で身体が重く、まだ痺れが残っている。  病室には監視カメラも設置されているので、病院の人間からすれば不審な行動は確認されておらず、この件が問題になることはないが、長い時間を知枝一人に任せたことへの心配は、全員が共有していたことだった。 「真奈、本当に……もう大丈夫なのか?」  ずっと眠れずに待っていた浩二は、意識の戻った真奈の穏やかな顔を見ながら、安堵の表情で聞いた。 「はいです、おにぃやおねえちゃんには、またおおきなしんぱいをさせてしまいまちた。マナ、はんせいです」  心配させてしまったことで罪悪感のある表情を浮かべる真奈だったが、すでに意識もはっきりしており、体調の方は戻っている様子で、顔色も良くなっていた。 「そんなことはいいんだよ、真奈が元気でさえいてくれたら……」 「そうだよ。真奈ちゃんはいつも私たちを笑顔にしてくれてるんだから」  真奈の手を掴みながら無事を喜ぶ浩二、その様子を安心しきった表情で見つめる唯花と達也。ようやくいつもの日常が、平穏が戻った瞬間だった。 「うにゅ……すごーくながいこと、まゆのなかにいたみたいなきぶんなの。  くうふくで、おなかがぺちゃんこなのですよ……」  真奈は眠っていた時間を、繭の中にいたようだと独特の表現で説明した。 「そうだな……とりあえず、病院食くらいは用意できる。  ナースコールで呼んでみるよ」  達也が受話器を取り、看護師と話しを始めた。  そんな中、元の元気な真奈の姿に喜ぶ三人の姿を見届けて、安心した知枝は物音を立てることなく病室の外に出た。  知枝は複雑な心境だった、それは真奈がこんなことになった”根本的な原因に気付いてしまったからだった”  出来れば本人には伝えたくはないことだが、そうはいかないと覚悟を決めなければならなかった。それに事実を知る人間は少ない方がいい、それは普通の理屈ではないからこそである。  医学的な説明ではない、いくらでも否定する余地のあるスピリチュアルな話しを出来ればしたくない知枝だったので、納得はして信じてもらいたいものだが、それをどう伝えればいいのか考えを巡らせていた。  だが、本人がやってくれば、伝えることを躊躇ってはならないと、自分の中の使命感が言っていた。  エレベーターのそばにある外の景色も一望できる自販機も設置された綺麗な待合スペースに知枝は腰を下ろした。  暴走しかねなかった魔力が落ち着いていてくれていることに安心し、ジュースを飲み、疲れを取り除きながら思考を巡らせる。  まだ朝も早いために人通りもなく、待合スペースは至って静かだったが、すっかり長居してしまったので、伝えることさえ伝えられれば早く帰りたいところだった。 「私って、自覚なかったけど無鉄砲なのかも、冷静に考えたら真奈ちゃんを助けた後のこともちゃんと考えておくべきだったわね」  今更言い訳のようで、嘘を付いても仕方がないことは知枝自身が自覚していたので、傷つけないための物言いを考えるのは、根っからの真面目さゆえに苦手だった。
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