第七話「断罪される救世主」

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 僅かな電灯と、周りの住宅からの灯りしかない、薄暗い夜の公園で俺は知枝のことを待っていた。  一番の感情はやり場のない怒りだった、それはたぶん、自分でも自覚していたと思う。  通話をして十五分ほど待っただろうか、夜になり子ども達も帰って行った後で静まり返り、自分以外に人影はなかった。  知枝の姿が公園の入り口に見えて、こちらに早足で近づいてくる。その表情はいつもと変わらない様子で、丸くて柔らかそうな頬はやっぱり朧げな記憶の中にある四年前と変わっていないように見えた。  服装は五月の中旬頃から長袖だった黒のワンピースが半袖になっただけで、細かい装飾の違いからそこそこレパートリーはあるようだが、遠目にはその見分けは付きにくいものだった。  ()()使()()()()()、その印象は最初に見た時から今まで、親しみやすさは変わったが本質的には変わっていない。本当に魔法のような超能力も目の当たりにして、親戚であることも知って、親しい間柄にはなったと思う。だけど、今はそんなことを考える余裕はなかった。  近づいて来る知枝にこちらからも姿勢を正し近づいていく。  迫る距離、身長差が三十センチ以上ある知枝だが、近くで見ると年相応の色気も奥ゆかしく持っていた。それはゆったりとした黒のワンピースからは体格も含め分かりづらいものだが、それでも長いまつげやピンク色の唇から妖艶な魅力が写り込んでいるのを、言葉にはしないが俺は自覚していた。 「突然呼び出してすまないな」  自然とその姿に惹かれ、許してしまいたくなる衝動を堪えて俺は話しかけた。 「いえ……ここは家から近いので気にしなくて大丈夫です」  知枝は緊張しているのかよそよそしかった。突然呼び出したのだから無理もないが、遠慮するつもりはなかった。 「唯花、傷ついてたよ。知枝がやったんだろ?」  前置きは必要ないと思った、それだけのことを知枝はやったと俺は思った。 「そんな……私は本当のことを言っただけ……です」  感情を抑えられない俺の言葉に怯える子犬のように縮こまった表情を知枝は浮かべた。  公園にある照明灯がぷつぷつと点滅していた、俺は構うことなく追求した。 「唯花に言ったこと、教えてもらっていいか?」 「浩二君は……知らなくていいことです」  知枝はそれをはっきりと口にした、小さな知枝の身体に圧し掛かっている魔法使いとしての使命の重みがそうさせているのだろうと俺は思った。 「すまないな、もう唯花から聞いたよ」 「そうですか……浩二君にはただ今まで通り真奈ちゃんのそばにいて欲しかったんです。ただ、それだけだったんです」  静かな公園なのに、知枝の表情は暗く、その内にある感情は複雑に澱んでいるようで、俺の感情はもう沸騰して我慢の限界だった。 「どうしてあんなことを唯花に言ったんだ!! 唯花が苦しまなければならない理由はどこにもないはずだ!!! なんで、唯花が自殺未遂なんて……っ、こんな理不尽なことがあってたまるかよ!! どう責任を取ってくれるんだよ」  次の瞬間には、胸倉を掴むように知枝のワンピースを掴んでそのまま締め付け、やり場のない感情をぶつけていた。 「仕方なかったんです、悲劇を繰り返させないために、唯花さんには真実を告げる必要があったんです!!」 「そんなこと……っ、唯花が自分を責める結果になったら意味なんてないだろっ!! そんなこともお前は分からないのかよっっ!!!!」  無感情に真実を告げる知枝の心情を理解することは到底できず、俺は気が済むまで容赦のない言葉をぶつけた。  それから先はよく覚えてない……。感情のままに言葉をぶつけていたと思う。しかし、表情は曇り、言葉を返す気力もなくした知枝を見て、俺はこれ以上言う言葉もなく公園を後にした。
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