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プリミエールの報告書に目を通した後で私は祖母が生前書き残した手記”14少女漂流記”の探索について改めて考えた。
旧校舎の地下書庫奥深くにあった祖母の書斎を訪れて以来、私は全七巻に分けられた祖母である稗田黒江の書き残したこの手記の探索をずっと続けてきた。
驚くことに手記を現在所有していたのは、手記に記されている三十年前の厄災の際に活躍した魔法使いの少女にまつわる関係者ばかりだった。
手記の解析を進めるたびに開示されていった映像アーカイヴによって明らかになった厄災の真相に私は衝撃を受けるばかりだった。
どれだけ閉鎖された街の中で苦しい日々を送り、彼らが生き残るために懸命にゴーストと呼ばれる人を襲う外敵と戦って来たか……それは目を逸らしたくなるような人類史であった。
少女たちがいかに普通の少女から覚醒を果たし、魔法使いの能力を駆使し熾烈を極めた戦いを繰り広げて来たか、私は感心すると共に、その過酷な現実に身の毛もよだつ心地で、その顛末の悲惨さを痛感した。
知れば知るほど異質な印象が残り、ファンタジーな世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。
この舞原市で三十年前に起こった厄災を舞台にしていて、多くの犠牲者の遺族にもこれまで会って来ただけに、私にとってはリアリティのある現実の事象として認識されている。
「魔法使いか……」
それぞれの特性に合った超能力を駆使する魔法使い。
祖母は魔法使いという言葉を使うことで、危険な要素も含む超能力の存在を曖昧な形で隠してきた。私も祖母の考えを引き継いで自分を魔法使いと名乗っている。
こうしていれば不思議な力があると信じる人の方が少ないから、手品のような感覚で自分を見てもらえてこの社会で暮らす上ではこの方が不自由が少ない。
現存する魔法使いが実際のところどれだけ残っているのか私もよく知らない。
もう少し、生体ネットワークの範囲が広がればアリスのアーカイヴスにより対象の情報を取得できる権限を得られるかもしれないけど、今のところ、私はそこまでネットワークを構築できておらず、深層に踏み入ることは出来ない。
そもそも、魔法使いにしろ能力者を表す名称自体が世間的に浸透しているわけではないから、個々の能力は置いておいて、超能力者や霊能力者のような形で現存していることが大半であろう。
さてと、これまでの探索で七冊が発見され、残り一冊というところまで来た。一冊ごとに続刊の在り処のヒントが開示されるから、探索は暗号解読次第で人海戦術を駆使していけばお手上げとなることはなかったが。
プリミエールに頼りながらも苦労はしてきたが、最後の一冊の在り処はすでに分かっている。
それは、赤津探偵事務所。そこには厄災で活躍した魔法使いである赤津羽佐奈さんがいる。
この方は厄災時、魔法使いのほとんどが戦いの中で死に絶え、この世を去ってしまった中、生き残った功労者である。
探偵事務所はその赤津羽佐奈さんが父の代から二代目として引き継ぎ経営している場所であった。
「四年前まで……祖母が生きていた頃は、祖母と会っていた羽佐奈さんをこの目で見たことはあった」
二人はよく親し気に話していて、祖母も年下の羽佐奈さんの事を恩人として尊敬しながら感謝しているようだった。
とても聡明でスタイルも良くて綺麗で、気さくなところもある婦人だった。
昔から芸能活動をしていて、モデル業やドラマにも出演していたから、本当に美容には気を使っているのだろうけど。
私はその雰囲気に圧倒されてしまって、なかなか本人を前に会話が続かなかったけど、はっきりとしないまでも強いオーラのようなものを感じていた。
それは優秀な魔法使いの素質によるものだというのが十分納得できるほどだった。
私は中間試験が終わり、その後に控える修学旅行の後に、その探偵事務所に訪れることを決めた。
「会うの緊張するなぁ……伝説の魔法使いか……」
普段以上に神経を尖らさせられる相手との対面を想像して私はつい独り言をつぶやいた。
最強とか伝説とか、そんな呼び方で本人に接してしまったら、怒られるか嫌われるかしてしまいそうだ。
でも、一方で羽佐奈さんは大らかでいつも堂々としていたから、私が伝説の魔法使いだなんて言ったら大袈裟に笑い飛ばしてしまいそうだ……。
14少女漂流記の中で羽佐奈さんは救世主のように登場し、そこで底知れない実力を発揮して見せてしまったから私はそういう大物であると、つい印象が刷り込まれていた。
私が立派な魔法使いと認められるにはまだ程遠いだろうと思い、なかなか会いに行く決断が出来ずにいたけど、日本に来て二か月が過ぎ、もう、これ以上躊躇っている時間が惜しいと感じていたので、私は会いに行く決意を固めた。
いよいよ、全ての真相が明かされる予感がして、私の胸が高鳴るとともに緊張を人一倍感じた。
あれこれ考えなければならないことに思考を巡らせている内に自然と気持ちが高まってしまった。つい体温まで上昇してしまった私は、気持ちを落ち着かせるために、この熱を冷まそうと飲み物を探しに一階にある台所へと向かうことにした。
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