降り立つ陽光

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「起きてください勇者様。朝ですよ」 「んん……」  リキュアに揺すられ、やっと勇者はベッドから起き上がった。 「もう、朝?」  私は眠気眼を擦りながらベッドの誘惑から逃れる様にゆっくりと立ち上がった。 「はい! 朝食も運ばれてますので一緒に食べませんか?」 「朝ご飯!」  リキュアの前には綺麗に三角形に切られたサンドイッチが置かれていた。  その甘いパンの香りに、私のお腹は猛獣の様に唸っていた。  そういえば、昨日から何も食べて無いっけ。  盛大に唸る腹を抑えて私はリキュアの隣に座った。 「その光と剣に感謝します。では、早速頂きましょうか勇者様!」  指を組み祈りを捧げると、リキュアはそう唱えて、何事も無かった様に笑顔でパンに口を付けた。 「うん? 頂きます!」  まぁ、食事の前に何か言ったりするものなんだろう、宗教関係の人だしな。 「美味しい!」 「お口に合って何よりです」  パンは小麦の甘さが程よく、その甘さと少しのパサつきをクリーミーな卵が優しく包み込んで、空っぽだったお腹を優しく満たした。 「さて、お腹も膨れましたし、行きましょうか、国王様の所へ」 「……行かなきゃ駄目?」 「いくら勇者様でも駄目に決まってます!」 「だって、王様って何か怖そうだし、堅苦しいの嫌だなぁ、右腕の大臣とかがイビってきそう」 「勇者様なら大丈夫だと思いますけど」 「だから、私は全然凄くなんて無いんだよ。……まぁ行かないは行かないで怖いから行くけどさぁ」  渋々と勇者は言った。 「それは良かったです! では、早速こちらに着替えましょうか」  そう言ってリキュアが持ってきたのは、とても良い生地で出来てそうな軍服だった。 「え、これ? まぁドレスよりはましかぁ」  軍服と纏めた長い髪。まるで軍師だ。 「うん。結構良いじゃん、ドレスよりこっちの方が好きだな」 「ドレスも良いですけど、それも似合いますね」 「うん。動きやすくて良いよ」 「では、着替えも終わった事ですし行きましょうか」  リキュアは神官服に着替え勇者の手を引いて廊下を歩いていく。 「勇者様着きましたよ」  王室の扉はとても大きく、ただの扉な筈なのに凄いプレッシャーを放っていた。 「ほ、ほんとうにここに入るの?」 「そうですよ、ほら今更怖気付かないで下さい入りますよ」  リキュアは嫌がる勇者を無視して、さっさとその大きな扉を開けて中に押し込んだ。  中は講堂程広く、両端には甲冑を着た騎士が一列に並んでおり、奥には玉座に座った王様と王妃様、他にも偉そうな人が何人も立っていて、その奥では煌びやかなドレスを着た女性が2人。その全員がこちらを見ていた。 「おぉ、そなたが勇者か、そんな所で立っておらずに近くへ来なさい」  王様は真っ赤なマントを羽織ったガタイの良さげなおじさんで、芯の通ったその声はまさしく王のそれで、勇者は完全に萎縮してしまった。 「ひ、ひゃい!」 「うむ、伝説にそぐわぬ美しい黒髪じゃな。早速討伐に出て貰いたいが、規則だからの。そこの3人の試練をクリアしたまえ。そしたら正式に魔王討伐の任を与えよう」  王様が指差した先には鎧を着た騎士、背の小さな女性、眼鏡をかけた女性の3人が居た。 「は、はい! 承りました!」  一方的で、こちらの意思なんかまるで無視しているのに、その言葉の重みに気圧され、ほぼ反射的に引き受けてしまった。  話はそれで終わり。これ以上話を聞く気も無いのか、他の家臣の昇進を何人か済ませるとすぐに謁見は終わってしまった。
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