降り立つ陽光

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「ど、どうしよう、リキュア。反射で引き受けちゃったよ」 「大丈夫です。勇者様なら出来ますよ」  勇者は部屋に戻ると、ベッドに飛び込んでうーうーと唸った。 「で、試練だっけ?」 「はい! 午後はそれぞれの講師の方への挨拶です」  リキュアの話によると、講師はそれぞれの分野の一流で、訓練は剣術、魔法、教養の順で1日交代に繰り返すらしい。 「んー……まぁ、やるだけやってみるよ。なんかやってたら、過去の記憶も思い出せるかもしれないしね」 「はい! どんな結果になっても私は勇者様の味方です!」 「リキュア……ほんといい子」  私はリキュアを抱きしめると、頭をわしゃわしゃと撫で回した。 「じゃあ、行ってくるけど、リキュアは着いて来てくれないの?」 「すみません、勇者様。着いていきたいのは山々なのですが、少し用事が有りまして」 「しょーがない。挨拶周りは自分で行くよ。ただ試練の時は一緒に来てよね!」 「はい、勿論です!」  騎士達の訓練場は軽い広場と、何本もの太い丸太が乱立していた。その中央には鎧を着た人が仁王立ちで立っていた。 「あの、講師の方ですか?」 「ん? もしかして君が勇者様?」 「あ、はい、一応。そうらしい、っす」 「そっかぁ、伝説通りの綺麗な黒髪だね」  全身甲冑の剣の達人。どうせ中身は無口なおじさんだと思っていたが、その声は意外にも若く、勇者に気さくに話しかけてきた。 「あ、あざます」 「まぁ今日は説明だけだから、そんな気張らなくても大丈夫だよ。と言ってもこんな見た目じゃ説得力も無いよね」  そう言って男は兜を脱ぐ。中からは金髪の青年が現れた。顔の周りを薔薇が咲いていそうな程の美形だ。 「僕の名前はムラク、王国騎士団の団長で君の師になるよ。よろしくね勇者様」 「は、はぃ」  爽やかに笑うムラク。勇者はその眩しい笑顔に思わず日差しを遮るように目を覆ってしまう。 「自己紹介も済んだし、そろそろ説明会といこうか」  彼は私の態度なんて一切気にせず説明を始めた。 「といっても、基本は僕との打ち合いによる稽古が基本かな。で、僕の試練なんだけど、単純明快」  ムラクは腰に携えた剣を抜くと、後ろの丸太目掛けて斬りかかった。  すると、ズドン! という音と共にその太く大きな丸太は縦に真っ二つとなった。 「も、もしかして、これを出来るようになれと?」  新しく用意された丸太も大人が手を回しても届かない程の太さだ。  あんなのを真っ二つ? 無理に決まってる。 「ん? あぁ違う違う! 丸太は僕の強さを見せる為」  ムラクは剣をしまい勇者に笑いかけた。 「試練は簡単。僕と試合して勝つ事。試合が始まればどんな手を使っても良いよ。どうにかして勝って」 「え、私が、ムラクさんに?」 「そう、勇者様が、僕に勝つ。その位出来ないと、魔王どころかその配下にすら勝てないよ」  ムラクは飄々とそう語る。 「なんてったってこの僕ですら配下にすら勝てなかったんだからね」  全然歯が立たなかったよと笑うムラク。 「ムラクさんもですか?」 「うん。夜にしか出ない魔物でね、一瞬で部下の殆どがやられて僕ももう駄目って時に夜が明けて奇跡的に生きて帰れたよ」 「そんなの、私勝てるんですか?」 「さぁ? それは勇者様次第じゃないかな。これで説明は以上! 僕はこの後部下たちを見に行かなきゃだから」  彼はそう笑顔で言うと、走り去ってしまった。  圧倒的な無理難題とその身勝手さに勇者は1人ため息をついた。  次に向かうは魔法の講師の元だ。  私は定期的に巡回の騎士とすれ違いながら地図に書かれた場所へと辿り着いた。 「お邪魔します」  中はフラスコやビーカー、沢山の書物が乱雑に置かれており、黒板には何か呪文や魔法陣らしきものが書かれていた。 「あのーどなたか居ませんか?」  辺りに積み重ねられた本を倒さないようそっと中に入って呼びかけた。 「あんたが勇者?」 「ひゃ!」  ツンケンとした少女の声がいきなり耳元で発せられ、私は驚いた反動で本の山を崩してしまった。 「勇者の割に随分とびびりなんだな」  声は目の前から聞こえるのに何も見当たらない。 「ど、何処から話しかけてるの?」 「仕方ない奴だな、私は優しいからな、答え合わせをしてやろう」  すると、目の前の空間が歪み、2対の羽の生えた手のひらサイズの少女が現れた。 「王宮魔導士でピクシー族のヤタだ」 「え、妖精さん?」 「そ、でさっきのは透明になる魔法」 「すっごい! 魔法ってそんな事も出来るんだ」  キラキラと目を輝かせてヤタの小さな手を取る。 「私にも使えるの?」 「魔力の量は問題無いし、あとはあんたの努力次第ね」  大変そうだけど折角の魔法、これは是非習得したい。 「じゃあ早速だけど、試練の内容ね」 「はい!」  勇者は返事した。随分と気合の入った返事だ。 「私に隠れ鬼で勝つこと」 「隠れ鬼? ってあの?」  少し気の抜けた声を出す勇者。 「勿論魔法有りでな。鬼はお勇者だ。私にタッチすれば勝ち。簡単だろ?」 「え、それって、もしかしてさっきの」 「勿論、攻撃も認識阻害も何でも有りだ」 「んな、殺生な」 「ま、私はあんたがクリアしようとしなかろうとどうだって良いしな」  ヤタは悪戯に笑った。
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