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「あら、その方は?」
訓練初日。私が素振りをしていると、無駄にデカいドレスを着た女性が訓練場へやって来た。
「先日召喚された勇者様ですよ」
「あぁ、あんな妹に呼び出されて可哀想にね」
「あんなって、もしかしてリキュアのこと言ってますか?」
勇者は素振りを止めると、女へ近づこうとする。
「勇者様、お辞め下さい」
しかし、すぐにリキュアによって止められてしまった。
「あら、勇者というより山賊ね。そこの神官に感謝することよ、あと一歩でも近づいてたらムラクに斬り殺して貰うところだったわ!」
こちらを終始見下したまま、女は高笑いしながら訓練場を出て行った。
「……なに! あの人!」
「ごめんね、彼女は第1王女のソフィア。僕の婚約者なんだけど、多分僕が付きっきりで特訓してるからちょっと拗ねちゃったのかな」
「嫉妬て、だからってリキュアを馬鹿にして良いって言うんですか?」
「もう大丈夫ですから、勇者様」
小声でそう囁くリキュア。
「リキュア……あの人言ってたよね。リキュアが呼んだからって。だったら私がムラクに勝ったらリキュアの評価も上がるよね」
私、強くなるよ。
勇者は小さな声で決意を固め、先程までより真剣に素振りを始めた
たった数日の付き合いだが、勇者の中でリキュアはとても大きな存在となっていた。
「ん、良い素振りだね。初日にしては素晴らしいよ」
その声にはソフィアの礼を欠いた仕草への申し訳なさからか、いくばくかの世辞が含まれていた。
「ムラク、本気で指導お願いしますね?」
その言葉にはムラクですら後ずさる程の威圧が込められていた。
「……ソフィア。もしかしたらとんでも無いものを生み出してしまうかもしれないな」
ムラクはそう呟き、自分の両頬を思い切り叩いた。
「ど、どうしたんです?」
先ほどの威圧感は何処へやら、すっかり怯えた少女に早変わりだ。
「うん。お陰で目が覚めたよ。僕も本気で指導するから……死なないでね」
先程までのちゃらちゃらした雰囲気はどこへやら。勇者の前に居たのは歴戦の猛者だった。
「望む所です」
勇者は木刀を深く握り直した。
「じゃあ、まずはこの木刀でその丸太を切り倒そうか。無理だったら出来るまで毎日素振り1万回ね。勿論剣の稽古が無くてもだからね」
そこから一日中、手のマメが潰れる度、傷付くたびリキュアに回復して貰いながら、丸太に刀を打ちつけた。
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