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その一、叡智の書
…――ウィィン。かりかり。かり。ぷっしゅぅ。
書店の自動ドアが開いたのを確認した後、ゆっくりと、その城壁内へと侵入する。
勿論、男と女のアッハン物語、ペチョグチョ編、という叡智の書を手に入れる為。
うむっ。
城壁内では、悲喜こもごもな人間模様が繰り広げられ、その最高峰ともいるブツを手に入れる為、ここへと訪れた。と、可憐な少女とも見紛う、其れが、目に飛び込んでくる。表題、愛とAI。今、衆目を集める話題沸騰中の作品らしい。
某有名なAIが書いたらしい。面白いのだろう。
いや、僕には無用。
唯々、崇高なる任務を遂行する為だけに此処へと訪れたのだから。
それでも、其れは、艶めかしさすら感じさせるほどの肢体を晒してアピールしてくる。まあ、とはいえ、僕自身、流行廃りなどに興味はない。むしろ、アングラな世界の住人と自負するまでの豪傑だ。ゆえ彼女からの視線など問題としない。
しかし。
一体、なんの気まぐれなんだろうか、僕は財布の中身を確認する。
勿論、自分自身でも分からないほどの小さな好奇心でというべきなのか、或いは、その少女が成長過程で得た不可思議な魅力に微かにも惹き込まれたと言うべきなのか、其れは分からない。が、兎に角、持ち金を改めて心へと刻み直してしまった。
うむっ。
文庫本程度ならば、二冊は買える余裕が在るな。
うふふ。
と、彼女〔愛とAI〕が、すわ、ほくそ笑んだような気さえした。
しかしながら、人類の英知を、神秘に迫る叡智を書き記した学術書を、買いに来た僕の心持ちとしては、目的の書を手に入れたあと、同ジャンルで、他にも気になる書が存在すれば、それを手に入れたいと思っている。だからこそ、件の……、
愛とAIなどという少女とは縁が無かったのだ、と言いくるめ、終わりにしたい。
兎も角、
煩雑なストリートを奥へ奥へと進み、其処は、まるでスラム街とも見紛うような猥雑な一画へと足を踏み入れる。人類史において、この上なく静謐な世界で密やかに行われる儀式を記した書を手に入れる為。神秘さと妖艶さを併せ持つ、其れを、だ。
遂には、
人間のノーブルさ、と、高邁なミステリーを追求し続け、辿り着ける境地に至る。
つまり、
哲学者が、四六時中、悩み、悩み抜き、よくやく出した結論である、どんな真理よりも、或いは、宗教家が、苦しい修行の果て到達するであろう無我の境地で見つける悟りよりも崇高で荘厳な神の戯れとも言える叡智の極。其処に辿り着いたのだ。
叡智の極。英知の極。Hの極へと。
兎も角、
ほんの直ぐ先に目的の書は在る。燦然と輝く、其れは、僕の訪れを静かに待っている。無論、自身は、この書を手に入れる為のリスクも熟知している。過負荷とも言える羞恥を刺激するがゆえの大きなデメリットを覚悟しなくてはならないとだ。
だからこそ、慎重に、落ち着いて、と心を鎮めてからカニ歩きで其れへと近づく。
ピョコ、ピョコ、ピョコと前屈みで決して気配を悟られないよう。
しかし、眼光は鋭く、暗殺者の其れを彷彿とさせる。闇夜に光る猛禽類の其れだ。
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