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失恋と甘い夜(沙羅 side)
これは、決して夢ではない。夢のような出来事が起こっている現実なんだ。
ベッドに静かに腰掛けているあの人。白いガウンを羽織っているその姿は、いつものスーツスタイルと違って胸をときめかせる。
私は今日、この人に抱いてもらえる……そう覚悟を決めた。
夢が実現する数時間前。私は会社の飲み会に参加していた。私達の課にも新たなメンバーが加わったこともあり、歓迎会を行うことになった。内気な私は飲み会は苦手だったけど、あの人が来るという理由で思い切って参加した。
しかしあの人と話す機会はほとんどなく、時間が過ぎていった。周りは二次会に行こうとしている中、あの人は「今日は帰る」と言った。チャンスは今しかない。私も帰る旨を伝えた。
そして、最寄り駅まであの人が送ってくれることになった。待ちに待った2人きり。少し離れている距離感さえも愛おしい。今まで心の中で抑えてきた感情が溢れようとしている。
「課長」
私が歩みを止めると、彼も立ち止まった。眼鏡の似合う端正な顔立ちが私を伺う。
「ん?どうした?」
「好きです」
「えっ!?!?」
「私、課長のことが好きです……!」
とうとう伝えてしまった。私の想いを。当然、彼は思いもよらぬ発言に戸惑っている様子だった。
彼……七瀬 蓮夜は私が所属する課の課長だ。とても仕事のできる人で、周囲からも頼りにされている。また、少し天然な面があり、抜けているところがチャームポイントでもある。
七瀬課長は35歳には見えない若々しさがある。スーツを身にまとい黒縁の眼鏡をかけた姿は、まさしく仕事のできる男を表している。現在独身で、結婚願望はなく、彼女もいないし作らないと聞いている。過去に何かあったのかは把握していない。
お互いに交際している相手もおらず、チャンスはいくらでもあった。私は入社して間もなく彼に恋をしたが、消極的な私はなかなかアピールできずにいた。
社会人2年目になり1ヶ月。私は自分の想いが溢れて止まらなくなり、この日の飲み会で告白すると決めていたのだ。
目を丸く見開き私を見つめる七瀬課長。それはそうだろう。何とも思っていない部下からいきなり想いを告げられたのだから。
「……ま、マジで?」
「マジです」
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