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1、ネギを背負った彼
八時前のオフィス街は、まだ出勤する人も少なく、今朝は風が少し冷たい。昨日退社直前にみつけた、会議資料の不備。会議は今日午後イチにあるから早出して修正をかけるためにいつもより早めに家を出た。
毎日歩くその道を、あくびをしながらビルに向かっていると前方から歩いてくる二人組の男が視線に入る。
青のパーカーの男性と、黒いリュックを背負った男性。そのリュックからニョキっと二本のネギが飛び出していた。
早朝のオフィス街で若い男がネギ背負って歩いているその姿がインパクトありすぎて、吹き出しそうになった。
(どんな顔してんだろ)
そして彼とすれ違う時に見たその顔に俺は思わず彼を二度見してしまった。
茶髪に切れ長の目。スッと通った鼻。少し厚い唇…その彼の顔が俺の好みそのもの。彼はパーカーの男の話を気怠そうに相槌を打ちながら俺の隣を通っていった。
「てなことがあってさ」
昼休憩の時間に同僚と近くの定食屋に行き、お手拭きで手を拭きながら朝の出来事を話した。
「それで朝から上機嫌なのかよ、安い男だな」
同僚の城南は顔を拭きながら、そう言う。城南は俺がゲイである事を知っている。そしてかなり惚れやすいことも。
「イケメンがネギ背負って歩いてんだぜ?明日も早めに来てみようかな」
「そんな奴が毎日歩いてるかってーの」
「はあい、オーダー何にします?」
俺と城南の会話に割り込み、割烹着姿の店員が注文を聞いてきた。
「俺、ハヤシライスね」
「えっと、刺身定食」
それぞれオーダーしてさきほどの話に戻る。
「それにしても、何でネギ…」
「しかも朝っぱらから」
城南はその姿を想像したのか、少し笑っていた。
翌朝。彼がいるかなあと思って早めに出たもののそんなうまくいかなかった。ただ、朝早いと人が少ないし、空気が清々しいことに気がついて何となく翌日からも早く行くようになっていた。
すると数日に一度くらいの頻度で彼に会うことが出来た。さすがにいつもネギは背負っていないが、手にジャガイモを持っていたり、なんらかの野菜を持っていることが多い。
彼にあった日は俺が上機嫌になるので、その度に城南にバレて『ネギの彼に会ったの?』と笑っていた。
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