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4、悩める小畑
毎週話をしていくうちに、俺の中でスナオくんの情報がどんどん蓄積されていく。そして何より愛しさとかそう言う恋愛感情も。
すると不安や諦めも比例してしまい俺の心の中はグチャグチャ。せっかく仲良くなっても、告白なんて出来ない。まだ若かったら、勢いよく自分の気持ちを伝えたかもしれないけれど。
「あれ?」
ある日、スナオくんが食後のコーヒーを淹れている時に、封筒が床に落ちていることに気がついた。ピンクの可愛らしい封筒。俺はそれを拾い上げ、スナオくんの近くまで持っていった。背中を向けてコーヒーを入れていた彼はこちらを振りかえる。
「これ落ちてたよ」
俺の手からスナオくんはその封筒を取ると何だか困ったような顔になる。何だろうか。
「…バイトの女の子から渡されたんですけどね。家で読んで欲しいって」
「あ…」
その言葉でピンときた。バイトの子は、いつも昼にオーダーを取りに来てくれる、可愛らしい女の子だろう。彼女はきっとスナオくんへの想いを手紙にしたためたのだろう。自分の心臓が飛び出しそうなほど動悸が激しくて、俺は聞こえないか心配になった。スナオくんはその封筒を見つめながら言う。
「さすがにないかな。彼女五つも年下だし」
コーヒーを入れ終えて、テーブルに置く。向かいに座ったスナオくんに俺は意を決して聞いた。
「スナオくん、彼女はいないの」
「うん。いないよ。二年前に別れてから、もうなんだかめんどくさくって」
彼女がいないことに、ホッとしながらもやっぱりヘテロなんだよなと思う。しかも二年前なら、出会った頃は彼女がいたんだなと訳の分からない感情でモヤモヤしていた。
「小畑さんは?俺初めて見た時、既婚者かと思ってた。サラリーマンの人って落ち着いて見えるからさ。でも指輪ないし…」
「まあこんな歳だし、嫁がいるのが普通なんだけどね」
「小畑さんの胃袋掴んだ子はまだいないの?」
スナオくんの何気ない言葉。だけどそれは俺の心臓を突いた。
それを君が言うなんて、と思った瞬間俺はもう言葉にしてしまっていた。
「いるよ」
「そうなんだ、じゃあその子に…」
言葉を遮るように俺は立ち上がりテーブルの上のスナオくんの手を取った。衝動はもう抑えられなくて。
「スナオくんだよ、掴んだのは胃袋だけじゃなくて…」
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