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そう言いかけた時、スナオくんの驚いた顔に一瞬で青くなった。やらかした、と思いすぐに手を離す。うまく誤魔化すことはできそうなのに、言葉が浮かばない。だから、つい出てしまったのは…
「気持ち悪いよね、ごめん」
その言葉で分かってしまうだろう。俺がスナオくんに対して、恋愛感情を持っているということを。
隣の椅子に置いていた鞄を手に持ち、俺はスナオくんの顔を見ることもなく【南町亭】から飛び出した。
俺は翌日から【南町亭】に足を向けなくなった。さらに悪いことは重なるもので、数日後、急遽の県外赴任が決まってしまう。しかも六ヶ月という長いスパンだ。だけど、俺は赴任が決まってからも【南町亭】に行くことはなかった。お昼を誘ってくれていた城南がちょうど繁忙期で誘ってこなかったのも重なり、まるで何もかもが俺から【南町亭】を遠ざけるように動いていた。
そして、スナオくんからのメールも着信もあの日から一切ない。多分もう会いたくないと思っているから連絡がないのだろう。
そんな状況の中、【南町亭】に行けるほど面の皮は厚くない。結局俺はそのまま【南町亭】から離れて行った。
そのくせに赴任先でもスナオくんが頭から離れなくて、何度もあの日のことを、後悔していた。
あの日から彼はどんな気持ちでいただろうか。優しさでご飯を食べさせていた男にまさか、好かれていたなんて。俺はスナオくんの反応を見もせずに逃げてしまった。今思えばなんて身勝手だったんだろうか。
そんなことを思いながら過ごしていた日々。ある日、定時すぎに城南からメールが届いた。
『お前、次いつこっち来る?』
ぶっきらぼうな文章に思わず苦笑してしまう。
『ちょうど来週、仕事のことでそっちにいくよ』
『分かった』
それだけでメールは終わってしまい何の用事かは分からなかった。まあ向こうに帰ったら話すればいいか。久々に城南に会えるのはちょっと楽しみだ。
そして翌週。二ヶ月ぶりに打ち合わせのために事務所に寄り、昼の時間になると城南が席までやってきた。
「小畑、久しぶり!元気にしてたか?」
「うん。あれなんか太った?」
「うわ傷つくわー。何でわかるんだよ。まあいいや、飯行くぞ」
相変わらず元気で声がでかい城南に釣られて、俺は笑いながら席を立ち二人で外に出た。その間、近況を報告しあう。
「どこ食べ行く?」
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