1、ネギを背負った彼

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そしてある日。まるで漫画のような出来事が起きた。いつものとおり、彼ともう一人、メガネをかけた男が歩きながらこちらに向かっていた。初めて見た時に一緒にいた男だ。 (今日は手に卵パックかあ) もう彼が何をもっていても、驚かなくなっていた。まあ普通に考えたら彼は飲食店に勤めているのだろう。 そして横を通り過ぎて行く時、背後から少年が走って来て彼にぶつかってしまった。衝撃で 彼の手から卵パックが落ちそうになったのだ。 (落ちる!) 俺は慌てて、その卵パックに手を伸ばすとこれがまさかのナイスキャッチ。 ぶつかった少年は一言ごめんなさい!といいながら走っていったが、彼らはそちらには目もくれず卵パックを見事にキャッチした俺を凝視している。そして、彼の隣の男が話しかけてきた。 「お兄さんありがとう!助かりました」 黒縁メガネの短髪の男は愛想良く笑顔でそうお礼を言う。対して『ネギの彼』は何も言わず、だ。 卵パックを彼に渡すと小さく頭を下げる。短髪の男とは対照的だなあ。ただこんなに間近に顔が見れたのは正直嬉しいけれど。 「スナオ!ちゃんとお礼言えって。ごめんなさいお兄さん、こいつ無愛想で」 「あ、いいんですよ。そんな大したことしてないし」 俺は愛想笑いを浮かべながらじゃあ、とお互い別れた。彼が無愛想だったのは何となく残念だけどスナオくんという名前を知れたのはちょっと嬉しかった。 今日もいつもの定食屋で城南とランチ。城南の前にはシャケ定食、俺は肉うどんだ。いつも定食を頼むので肉うどんだけの単品だと正直足らない。城南にも腹減らない?と聞かれたが、給料前だから、仕方ないのだ。スマホでニュースをチェックしながらうどんを啜る。 すると、コトリとテーブルに何かが置かれる音がしてそちらに視線を向けるとオムレツが乗った皿が置かれていた。オムレツなんて、俺も城南も頼んでないのに。 「あの、これ頼んでませんけど」 顔を上げそう言いながら店員を見る。白い帽子を被っていたその顔に何となく見覚えがあって『ん?』となっていると店員の方から話しかけてきた。 「今朝、卵を救っていただいたお礼です」 「あっ?」 そこにいたのは今朝出会った礼儀正しい黒縁メガネの男だった。城南が不思議そうにこちらに視線を向けてきたので手早く今朝の出来事を教えてやった。 「卵なかったら大将に怒られるところでした」 ちら、とカウンター奥の同じ帽子をかぶっている初老の男性に視線を送っていた。いつも中華鍋を振っている少し小柄な男性だ。そしてその横に立つ男の横顔を見て再度声をあげそうになった。何故ならネギの彼…いや、スナオくんがいたからだ。
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