3、定食屋【南町亭】

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3、定食屋【南町亭】

あれから三度目の春。俺が部署移動して数日が経ってから、城南が昼飯に誘ってきた。 「新しい店ができたみたいなんだよ。お前が部署変わって俺が恋しいだろうから一緒に食べてやろうと思って」 「何じゃそりゃ」 外に出ると初夏の日差しが眩しい。きっと夏もすぐやってくるのだろう。歩きながら店の場所を聞くと隣のビルの地下一階、【住田食堂】のあった場所だ。階段を降りて右折するとお祝いの札がついた観葉植物が置いてありその先に暖簾が見えた。 この場所にあった店は女性が好みそうなカフェで、腹を満たせるような店ではなかったから、ずっと来ていなかった。だから、【住田食堂】の入り口の作りが似ていたこの店がかなり懐かしく感じられる。 「たまたまチラシを見たんだ。三日前にオープンしたばかりらしい。あまりメニューはないみたいだけど、定食オンリーだとさ」 「へぇ」 それはいいな、と言いながら暖簾を手ではらい、引き戸を引くと、いらっしゃいませと若い声が聞こえた。観葉植物とコンクリート打ちっぱなしの壁。木製のテーブルと椅子が柔らかい印象だ。 近くの席に座りメニューを見ると、確かに定食しかなくて品数も少ない。だけど写真にあるメニューはどれもうまそうだ。 「あ、チキン南蛮定食がある」 「お前大好きだもんな、俺はこれにしよ」 注文を聞きにきた店員にオーダーして、数分すると美味しそうなチキン南蛮と城南のハンバーグがやってきた。どれどれ、と口にするとカリッとした衣に粗めの卵が入ったタルタルソースがふんわり口の中に広がる。チキンも程よく柔らかい。これはなかなかうまいぞ、と城南に言おうとしたら同じことをいようとしていたのかハンバーグを指差して口をモグモグさせていた。 「美味いな」 そう俺が笑うと、城南も頷く。しばらくチキン南蛮を堪能していたころ、テーブルに皿が置かれた。見上げてみるとそこにはフレームのないメガネをかけた店員がいた。どこかで見たような、と頭を傾けていたら、城南が先に思い出したようであっと声を上げた。 「【住田食堂】の、黒縁メガネかけてた子だ」 それを聞いて俺は彼をまじまじと見た。メガネは変わってて、帽子はかぶってないけれど確かにあの時の黒縁メガネくんだった。
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