3、定食屋【南町亭】

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「ご無沙汰してます。お二人ともにお越しいただき嬉しいです」 テーブルに置かれた2つの皿にはオムレツがちょこんとのっていた。それを見て俺はキョロキョロと店内を見渡すが、この席からは厨房は見えないレイアウトのようだ。 前、卵を救ったときにもらったオムレツはスナオくんが作っていた。もしかしたら、これも彼が作ったのではないか。だけど、ふと思い出す。 『サラリーマン相手の、腹を満たすだけの定食屋だ』そんなことを言っていた彼がここにいる訳がない。俺は彼を探すのはやめた。 「これは、サービスです。また来ていただいたお礼に」 そう言われたら食べないわけにはいかない。スプーンを手に取りオムレツを救う。硬めの卵焼きに玉ねぎとひき肉の胡椒炒め。あの日食べたオムレツと同じだ。 「美味いなあ、チキン南蛮も美味かったよ。君がお店を出したの?」 「僕がというより共同経営です。ほら、覚えてますか?一緒にいた茶髪の愛想のないやつ」 ドクンと心臓が高鳴る。それはつまり、スナオくんでは? 「ああ、あの子だろ。ネギ…」 「覚えてるよ。オムレツ作ってくれた子だよね」 俺は城南の言葉を慌てて塞いだ。するとメガネくんは頷いた。 「定食屋、継がないって言ってたんですけどね。何を思ったのか、定食やりたいって言い出したんです。まあ大将も呆れてましたけど、嬉しそうでしたよ。自宅で色々教えてもらってようやくオープンしたんです。僕も他のとこで飲食やっていたんですが、誘われてじゃあやるかってことで」 それを聞いて俺は少しだけ目頭が熱くなった。もしかしたらスナオくんは気がついたのかもしれない。定食屋はただのご飯を食べさせる場所じゃないってことに。最終日にみた光景に何かを感じたのかもしれない。危うく涙を落としそうになるのを堪えて俺はまたオムレツを口にした。 食事を済ませ、レジで精算していると店員が少し待ってくださいねと声をかけてきた。何だろうと待っていると、店の奥から一人の男性が出てきた。黒髪の短髪に、耳にはピアス。その男性は少しいい感じに歳を重ねたスナオくんだった。 「お越しいただきありがとうございました」 柔らかくなった口調とその笑顔に、彼が大人になったんだなと感じさせた。ニヤニヤする城南を尻目に挨拶をして店を後にした。
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