令嬢と首丈の騎士様

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 ジェーンの一族アドラー家は、代々続く魔導士の家系だ。  由緒ある帝国直属の伯爵家である。  当主はジェーンの伯父、クルト・アドラー。  数少ない魔導士の一人であり、若くして帝国の重役を担った、天才の名を冠する男、だったらしい。  ジェーンは、自分を生き返らせたというクルトに感謝していた。  記憶を失ってはしまったが、こうして生きているのは彼のおかげである。  そういった経緯もあり、ジェーンはクルトに対して、多少気を許していた。  例え一番に信頼するルトガーが、わずかに嫌悪感を示していたとしても。 「痛い所はないですか?」 「無いです」 「変わったところは?」 「ありません」  ジェーンに魔力の籠められた光を翳しながら、そんな会話をする。  ちなみに何故、医者でもないクルトが診察しているのか。  ジェーンが聞いたところによると、クルトの魔法によってジェーンが生き返った為に、一般的な医学知識だけで診断することが好ましくないと考えられたからだ。  そのため普段はクルトが診察しており、以前のお医者様が診察に来るのは数日に一回ほど。  魔法によって多くのことを手掛けている様子は、まさしく天才の名に相応しい仕事ぶりである。 「ふむ……問題なさそうですね」 「そうですか」 「ジェーンは、なにか聞きたいことはありますか?」  ジェーンは何かあっただろうか、と無言で考える。  そんな様子を見て、クルトはにっこりと微笑んだ。 「この様子だと、いずれ診察も不要となるでしょうね」 「はい……」 「何でもいいのですよ。怪我のことでなくても、本当に些細なことでも」  そう聞かれて、ジェーンはうーんと考える。  ジェーンが口を開くのを、クルトはただ黙って見ていた。 「……どうして私を生き返らせてくれたのですか?」 「そんなことが知りたいのですか?」  ジェーンが頷くと、クルトはさも当然と言わんばかりに口を開く。 「家族を生き返らせるのに、理由はいりませんよ」 「そうですか」 「ジェーンだって、ルトガーが死にそうだったら助けるでしょう?」 「おそらく、助けると思います」 「それと同じです」 「……同じではないと思います」  ジェーンの言葉に、クルトは首を傾げた。 「どういうことですか?」 「……伯父様は、私が助けたのです。助けたのではありません」  どうして死んだのに、そこまでしてくれたのか。  ジェーンは、ずっと不思議だったのだ。  だからこそ生き返ってからも感謝していたのだが、同様に疑問も抱いていた。  何故そこまでしてくれたのか。 「…………可愛い姪の為ですよ。なんだってしますとも」 「……そうですか」 「そうなんです」  いつもと同じようにクルトが微笑む。  そう言われては、ジェーンも納得せざるを得なかった。  診察を終える。
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