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数々の診察を終え、ルトガーと勉強する日々を過ごし、イドナと会話する頻度も増え、家族と食事をするようになり、ようやく部屋から出る許可を得ることが出来た。
初めて部屋の外へ出た時、ジェーンは自分が住んでいた屋敷が、とても大きいものだと気づかされる。
天井は高く、部屋数も多い屋敷内は、部屋の中を歩き回ることしか出来なかったジェーンを圧倒した。
一緒にいたルトガーへ、ジェーンが話しかける。
「どうして、こんなに広いの?」
「ええ? うーん、考えたこともなかった……」
困ったように呟いたルトガーだが、少し考えて、また口を開いた。
「たくさん人が出入りするからじゃないかな? 使用人の人たちも住んでるし……それに僕たちの家は、保管庫が他の家よりも多いらしいから」
「保管庫?」
「魔導士の人って、蔵書もそうだけど、薬品とか特殊な道具を管理する必要があるんだって。だから他の人たちに比べると、魔導士の住む家は保管庫の部屋が多いらしいよ」
「見たことあるの?」
「まだ。子供には早いって、入れてもらえないから」
ルトガーは肩をすくめ、それを聞いたジェーンも残念に思った。
だが立ち入り禁止なら仕方がない。
「でもコッソリ探したことはあるよ」
「どうだったの?」
「入れはしなかったけど、それっぽい入口は一つ見つけたんだ」
そう言ってルトガーは悪戯っぽく笑うと、「こっち」とジェーンを手招きした。
ジェーンは大人しくルトガーに着いていく。
広い屋敷内を色んな場所に目移りさせながら歩くこと、数分。
ルトガーは図書室へ案内した。
「この中にあるんだ」
「この中……?」
「ジェーンは、隠し扉って知ってる?」
ルトガーの質問にジェーンはすぐ頷いた。
二人は図書室の中へ入っていく。
その名の通り、そこには何千冊という本が、大きな棚に所狭しと並べられていた。
あまりに多い本の量にジェーンが驚いていると、ルトガーが奥にある本棚の前で止まる。
「ちなみに隠し扉を開けるのには、秘密の合図がいるんだ」
「秘密の合図……」
「ここの本棚はね」
そう説明をしながら、ルトガーが本棚の本を何冊か動かす。
そして一冊の本を奥へ押し込んだ瞬間、ガコンと大きな音がした。
ジェーンが驚いていると、本を動かした本棚の隣の、別の本棚が下へと動く。
そうして地面へと本棚が沈んでいくと、その背後に重苦しい鉄の扉が現れたのだ。
「すごいでしょ」
目を見開いているジェーンに、ほんの少し得意げなルトガーが言う。
ジェーンは素直に頷いた。
今日は目新しいことばかりで、頭がパンクしてしまいそうだ。
「でも残念なことに、この扉を開ける方法はまだ分からないんだ」
「……ドアノブがないのね」
「大人しか入れないくらいだから、なんらかの魔法が必要なんだろうけど……」
二人で顔を見合わせ、一緒に考えるが、すぐに答えが見つかるわけがない。
ルトガーは大人に見つかる前に、すぐさま本棚を元の状態に戻した。
「ルトガーも魔導士になりたいの?」
何気なく、ジェーンは問いかける。
「ううん。なりたくないよ」
ルトガーは即答した。
「僕、本当は騎士になりたいんだ」
「騎士って、剣を扱う?」
「そう。カッコいいでしょ?」
ジェーンは頷く。
「でも、どうしてなりたくないの?」
「こういう隠し扉を見つけるのは、楽しくて好きだけど、魔導士って勉強ばかりで嫌になっちゃうから。僕、本当はもっと身体を動かして、強くなりたいし」
「……勉強が嫌いなの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
だんだん歯切れの悪くなるルトガーに、これ以上ジェーンは尋ねることを止めた。
何かしら理由はあるのだろうし、ルトガーが決めたことに、口出しする気も無かったからだ。
「ここで本を借りてから行かない? 途中で人に会っても、理由を説明できるし」
「いいね。そうしようか」
今度は本を探して歩き出す。
そうしているうちに日は暮れてきていた。
夜になる。
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