君という作家を見つけて

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 月曜日の朝、いつものように通勤列車の列に並ぶ。  おやじとの密着を避けるため、早めの電車に乗ることにしている。  スマートフォンで不穏な動きがないか、ニュースをチェックする。これも編集者としての私の役目。  前に立つ長身の男子高生が振り向くと、ニコリと私に微笑みかけてきた。 「また会えましたね——」    誰かに挨拶したのかと思い、私は後ろを振り向いてみたけど、それらしき人はいない。 「え。私?」 「はい、昔お世話になりました」  長いまつ毛の隙間から見えるキリっとした黒水晶(モリオン)のような瞳。  こんなイケメン男子の知り合いはいない。戸惑って目を泳がせていると、彼は私の手を握り、強引に腕を引っ張ってきた。 「覚えていないんですね、ちょっといいですか?」 「え、ええ? 私仕事があるんですけど……」 「あなたの秘密……ばらしますよ」  その言葉にピクリと反応してしまい、私は彼に連れられて、改札の外に出た。  ずっと手を握ったままなので、はたから見ると怪しい関係に思われるかもしれない。  男子高生は駅前のカフェを見つけると、話しかけてきた。 「ここでお茶でもしましょうか」 「あの……私、仕事が」  ブーとスマートフォンが鳴る。急いで画面を眺めてみると、電車の遅延情報が入っていた。 「車両故障で地下鉄がトンネル内で停止中……?」 「ほら、まだ時間あるでしょう? しばらく動かないから、それまでお茶でもして待っていましょう」  しかたなく男子高生の後をつき、カフェの店内に入る。
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