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ドキリと心臓が脈を打つ。
「あれって……あれのこと?」
「そう、あれ」
いや待て、これはひょっとするとアレアレ詐欺かもしれない。
こうやって私の秘密をうまく引き出して、騙そうとしているかもしれない。
「私を騙そうとしている?」
「違うよ、あれが出たとき、助けてくれたじゃないですか」
「助けた、私が……? あ、まさか!」
「思い出した?」
文学少女であった当時女子高生の私の前に、突如現れたノヴェロン——妄筆獣。作家の妄想が生んだバケモノに襲われそうになっていた少年を、能力覚醒した私が助けた。
なぜか持っていたボールペンが巨大化して、妄筆獣に『トルツメ』と呪文を書いたら怒号を上げながら消滅した。
それからというもの、私は再び同じような危機が訪れないか、監視するために編集者になることを決めた。
「まさか……あのときの少年?」
「うん、何も起きないからアクセントつけてみたんだけど、どう思った?」
「どうって?」
「小説として」
「小説だとしたら……うーん、設定が甘すぎるかも。私がなぜ妄筆獣を倒す呪文を知っていたのか、少年は何者だったのか、ボールペンの巨大化は安易すぎる」
「ですよね。なので、主人公に意見を聞いてみたくなったんだ。何が足りないのかな」
私は急に編集者モードに切り替わり、真剣な眼差しで彼を見つめた。
「デレ……かな。今編集部では『恋愛ファンタジー』を推しているけど、女性読者が多い中ではやっぱり恋愛要素がないとウケない。だから主人公と少年の間に特別な感情を生み出して——」
「——キスでもしてみる?」
はっと気づくと、彼は私の言葉を遮り大胆な言葉を吐き出していた。
「何言ってるの、高校生とキスなんて……できるわけが……」
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