君という作家を見つけて

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「実はさ、僕が小説を書き始めたのには理由があるんだ。こうやって小説を書いて、コンテストに応募し続ければ、いつか助けてくれたあなたにまた会えるんじゃないかと思って。そしてやっと会うことができた」 「君はもしかして最近短編コンテストに応募されたあの作品の作者?」  今ここで起きていることがそのまま小説になっていた。 「もう読んでくれましたか。どうでしょう、今回こそ入賞したいなと思って頑張ってみたんですけど」 「ちょっと待って。私は小説の中の主人公で、君はその作者だということを言いたいの? それであなたは外の世界の人?」 「いえ、僕も小説の中の人なので、主人公に会えることに矛盾はないという設定です」 「正気かしら」 「でも考えてもみてください。ボールペンが巨大化したり、たいして勉強もしていなかった文学少女が編集者になっているとか、現実にありうると思いますか?」 「ぐ、言われてみるとそれもそうだけど……」 「それでインサイダーかもしれないんですけど、感想を聞きたくて」 「うーん、まだ途中だけど編集者が主人公というところは気になっている。でも独創的な設定や主人公の人間性が見えてこないと難しいかな」 「主人公の人間性? 一応設定はしてみました。いつか運命の相手と出会い、ほどほどの恋愛をして結婚する未来を夢見るアラサー女性。唯一の楽しみは缶チューハイ。社内では波風立てずに、大変な仕事を押し付けられないように気をつけている。でも編集者という仕事には誇りを持っている」 「えっと、だからそういう普通の人物像では物語が成り立たないから、もっと幻想を持てるような設定が必要なの」 「それにはあなたが変わってくれないと」 「はっ?」 「どんな人生にもきっかけひとつで物語はできてくる。大きな野望を持って、厳しい試練に挑戦して、大波乱の恋愛を楽しんでくれれば、この小説ももっと面白くなるのかもしれません」 「高校生にはわからないと思うけど、現実はそう甘くないのよ。生活もあるし、リスクを犯してまで自分の人生を犠牲になんかできない。だから統計的な情報に基づいた安定した将来設計が必要なの」 「マーケティング、ニーズ、トレンドというやつですね。でも今まで世界を革新してきた事象って、そういうものから生まれたんでしょうか。それが既存の枠組みの中から出てきたとは思えません。それは小説も人生も同じように思います」
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