君という作家を見つけて

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「うわあ、なんだか滅茶苦茶な怪物……」 「さあ、あのバケモノを倒してきてください!」 「それはボールペンで?」 「そうです」 「今どきノートPCとかタブレットを使うから、ボールペンなんて持っていないんだけど」 「そうなんですか! 失敗した、設定不足だった」 「その前にそもそもボールペンで倒すなんて、すでに前振りしていることだから、ここで出しても意外性がなくて面白くないわよ」 「意外な設定ですか、そう言われてもアイデアが浮かびません」  妄筆獣がフラフラと寄り掛かったビルが倒壊して、ガラガラとコンクリートの瓦礫が二人の前に落ちてきた。 「危なーい!」  思わず私は彼に飛びつき、一緒に倒れ込んでしまった。 「そうだ、このままいっそ妄筆獣に踏み潰されるというのはどうでしょう。これは意外性ありませんか?」 「いつつ……意外性どころか、展開なさすぎて完全にボツね」 「ううーん、どうしよう」 「まずあの妄筆獣はなぜ生まれたの? 発端がないとあいつを倒す意味が出ないわ」 「あれですか、それは……言いづらいです」 「なんで?」 「たぶん、反感買うかもしれないので」 「そんなこと言っている場合じゃないと思うけど」 「あれは……作家と編集者が生んだ妄想癖の塊です。荒唐無稽な妄想が文学の街々を破壊しているんです」 「……私たちが悪いってこと? でも妄想が悪とは思わないけど」 「何の努力もしていないのに、特殊能力を持った美女と偶然知り合って、チート能力を使って無敵の勇者になる。それが小説なんだと思って、僕もそんな学びも気づきもない小説ばかり書いていました。でもだんだん支離滅裂で微妙に辻褄が合わないおかしな世界になってきました。だから編集者に推敲してほしいんです、何が足りないのか」 「たまに人気漫画でもあることだけどね。特殊能力を持った美女……それは私のことかしら。悪い気はしないけど、仲良くなるにはプロセスが大切。その過程をしっかりと描いて、君と私の関係性を創り上げていかないと」
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