君という作家を見つけて

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 はあ、今日はせっかくの土曜日だというのに、これからお仕事。  友人から飲み会のお誘いはあったけど、丁重にお断りした。  短編小説コンテストの作品選定の締切が前倒しになって、休日にリモート対応しなければならない。  中途採用の新人二人とリーダーの私を含めて、三人で一次選考を担当する。  でも今回のテーマは難しいので応募は少なめ、約六百作品からの選考。  いつもよりゆったりと読むことができる。    それに休日のリモートの仕事の良いところは……  プシュ——  飲みながらでも仕事ができること。見張る編集長もいない。  私のお気に入りはグレープフルーツサワーの缶チューハイ、これをちびちびと飲みながら、キラリと光る作品を見つけるのは嫌いではない。  それに何かあったときにすぐに動けるのも都合がいい。  さてと……ノートPCを開いて編集者権限で管理画面にログイン。  大体の作品は最初のページで感触が掴める、冒頭で読者の興味を引く文脈がなければ、最後まで読んでもらうことは難しい。これで半分以上はすぐに消えていく。  誰が書いたのか、わからないようにしてあるけど、それぞれ作家によって癖があるから、表紙と文頭の書き出しで大体見当はついてしまう。    ポテトチップを摘みながら、小説のページをめくっていく。   『また会えましたね——』    ページをクリックする指がピタリと止まる。  この作家さんはストーリー自体はよくあるファンタジーテイストばかりだけど、いつも読者に語りかけるような文体で構成する。  たまに見られているのではないかとヒヤリとするときもある。  一次選考を通したこともあるけれど、最終選考では編集長に弾かれていた。 「ああ、その作家さん、あれだからね。受賞は無理だよ」  出た、おじさん特有の『あれ』、なんのことだかわからないけど、必ず不採用。 「何か問題でもあるんですか? クレーマーとか?」 「んー、あれだよ。個人情報に関わるから、あれだけど」  そんな会話を編集長と交わした覚えがある。  でもこの小説、よくある設定なんだけど気になるところがある。  少し楽しみなので、読了は週明けまでお預けにしておこう。
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