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後編
「皆様、これが私の今の姿となります」
見られている事がわかる。この姿となってから、前よりも視線がどこに向いているのか分かるようになった。
「ほ、本当に勇者殿か・・・」
「これは、言われなければ絶対に勇者殿とは分からぬな・・・」
戦士と同じ位だった身長は戦士の胸の辺りまで縮み、短かった髪は腰下にまで伸びた。皮膚の色は透き通るように白く、腕と足は細くなった。
顔は小さく細くなり、ぱっちりとした眼にスッと通った鼻筋。小さく柔らかそうな唇はピンク色をしている。
形の良い胸部はその大きさにも拘わらず上を向き、その存在感をこれでもかとアピールしている。
そんな美少女となった俺はぶかぶかのシャツ一枚という出で立ちで、胸元から覗く谷間を隠そうと腕でガードしている。
「ゆ、勇者よ、随分と可愛くなったな。その出で立ちはどのような意図なのだ?」
「これも呪いの一部なのです。人目を避ける為にローブを着る事は出来るのですが、着替える事が出来ないのです」
視線がどこに集まっているのか丸わかりで、本当に恥ずかしい。頬と耳が上気して赤くなっていると自覚できてしまう。
「まさか女性となっているとは・・・これでは王女との婚約は撤回せざるを得ないな」
国王陛下が俺と王女様の婚約撤回を口にすると、今まで胸に見惚れていた貴族の一人が叫んだ。
「陛下、ならば私が勇者殿と婚姻を。一生勇者殿をお守り致します」
「貴様、妻帯者であろう!私は妻を亡くしております。私が勇者殿と・・・」
「年を考えろ年を!私ならば年齢も近く、適任でございます!」
「貴様は婚約者が居るだろう!それより私が!」
婚姻希望者で収集がつかなくなった謁見の間。助けを求めて戦士を見る。
「皆様、勇者は俺が生涯掛けて守ります!」
「いや、勇者を守るのは俺だ。脳筋には任せられん!」
どちらが俺と暮らすかで口論を始める戦士と賢者。貴族達も相変わらずで収集がつかず、俺は何も出来ず途方に暮れてしまった。
「静まりなさい、誰の許しを得て好き勝手騒いでいるのですか」
決して大きくない、しかしよく通り耳に残る声に貴族達も戦士も賢者も口を閉じ、発言した人物に視線を合わせた。
「婚約の当事者である私達を無視して、そんな自分勝手な主張が通るとでも思っているのですか?偉業を成したにも拘わらず苦境立つ勇者様の心情を考えないのですか?」
王女様は王妃様の側を離れ、俺の前に立つと優しく抱きしめてくれた。
「勇者様の意志も聞かず我欲を満たそうとする者に勇者様は託せません。勇者様はまだ私の婚約者なのです。その身は我々王家が預かるものとします」
こうして俺は王城の一室を与えられ准王族としての暮らす事となった。人の目に触れない王城の奥深くで、王女様を始めとした限られた人と接して生活を送る事になる。
その夜、与えられた部屋で眠ろうとベッドに入ると、隣室への扉が開き王女様が現れた。どうやら隣室は王女様の部屋だったらしい。
「王女様、どうかお戻り下さい。事案になってしまいます!」
「私達は婚約者同士です。何の問題もありません。しかも、今は同じ女性。添い寝する事に何の不都合もありませんよ?」
その後、勇者は王城の奥深くで幸せ?に暮らしたという。
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