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甕覗きの川
「 ちょっと下に降りて周りを歩いてみようか」
「 えっ、嬉しいわ。
先生ったら、いつもこの駅の上からの景色ばかりなんですもの。」
無人駅のホームから外に出るには、長い階段を下りなければならない。
バリアフリーの精神なんてここにはないんだな。
そんな時代に作られ、そして忘れられていく駅。
この国には似たような建物や施設なんて数えきれない程にあるのであろう。
階段を下りきり、道なりに甕覗色した川の下流方向にしばらく歩くと、古い木製の橋が架かっている。
橋の上から覗いてみると、ホームから見るより激流もさらにその迫力を増す。
橋を渡りきった所には押しボタン式の信号機があり、その先に緩やかな曲線を描きながら登る山道が続く。
そのすぐ脇に建つ廃ホテル。
入口の壊れた自動ドアのガラスに寂しそうな中年男性の姿が一人映る。
消炭色。
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