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鉢嶺先生
藤子は私のことを先生と呼ぶ。
以前、私がとある大学の相談室でカウンセリングを担当していたときに、相談に来た学生の一人が藤子であった。
大学生の悩みは多様でこそあるが、大概は凡庸である(そんなことを言ってはいけないのだが)。
大学の雰囲気になじめない
友達ができない
大講義に集中できない
アルバイト先の先輩との関係
漠然とした不安で夜眠れない
就職先が決まらない
例を挙げればきりがない。
それに対して、私が具体的なアドバイスをするのではなく、
とにかく話をきき、その過程で自分の現状を理解してもらい、何をしたら良いか、何をしなくても良いかを自分なりに整理してもらう作業に誘導する。
来談者中心理論とかシステム理論とかそんな緩やかで穏やかな関わりをしていく。
ひどく退屈な作業であった。
まるで薄墨色の水墨画の世界に閉じ込められているような感覚。
そんな相談室に藤子は、いや藤子の相談内容は鮮烈な色彩を投げ込んだ。
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