(2)猟奇者

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 この日本で最も有名な名探偵と同じ名前を名乗るこの得体の知れない少女との出会いは、今回で二度目。初めて出会ったのは、今から一ヶ月程前の事だ。早苗がある奇妙な事件に巻き込まれ、その解決役として妹から紹介されたのが切っ掛けだった。その時に小(こ)五(い)郎(つ)は、大林という俺の苗字になぞらえて俺を勝手に『小林君』と呼んだのだった。  その小五郎は、外したカツラをハンドバッグの中に押し込むようにしまうと、髪をかきむしった。 「いやぁ、どうもこのウィッグというのは苦手でね。頭がかゆくなってしょうがないんだ」  少女の美しい黒髪は、見る間に無惨なボサボサ頭へと変貌する。 「でも、どうだった? ボクの変装術は。なかなかのものだったろう」  幼い無邪気な声で、得意気な笑みを作る小五郎。  ……冗談じゃない! さっきの変装が子供の遊びのレベルじゃない事くらい素人目にだって分かる。本当にコイツは一体……  と、小五郎は無邪気な声のまま、俺を見下ろすその目を鋭くさせた。 「……しかし、キミの猟奇趣味には呆れるね。子供を襲ってみたり、年寄りを襲ってみたり、本当に見境無しとは。今まで未遂で済んでいる……いや、今のは危なかったが、まあ、ボクが相手であったわけだし、いずれにしろキミは運がいい。奇跡的にね」  それからしゃがみ込み、俺と視線を合わせる。 「自分よりも確実な弱者に対して異常なまでの愛情を抱き、同時にその対象者に対して破壊衝動が止められなくなる。実にキミは愉快だな」
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