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初めて出会った時から、俺のソレは小五郎に見抜かれていた。
常に俺の心の中に鎌首をもたげている黒い衝動。
今日は特に酷くて……囁かれていた……今日は調子がいいと……
俺は耐えられずに、小五郎の笑顔から顔を背けて俯き、小さく返した。
「俺だって、好きでこんなんじゃない。本当は、もっと普通でいたいのに……」
「あきらめたまえ。『キミの本質は悪だ。キミに普通など訪れやしない』そう言ったはずだよ?」
ああ言われた。そう言い切られた……
「そんな哀れな顔をするものじゃないよ。キミの猟奇(それ)は、なかなかに珍しい怪異(なぞ)なのだからね。なにせあんなか弱そうな早苗さんの前では、未だにその本性を現していないのだから。誇ってもいいくらいだ」
「お前が楽しんでいるだけだろう……」
「探偵とは、そういうものだよ」
こいつとの問答は、本当に嫌になってくる……
俺は、頭を抱えながらヨロヨロと立ち上がり、胸に手を当てて大きく一つ深呼吸をした。よし、やっと目が覚めた。『普通』が戻ってきた。
「ふむ、それじゃあ早速だが話を本題に移そう――」
俺に併せるように小五郎も立ち上がり、再びニコニコ顔を浮かべた。
「――あっ、その前に、予め言っておくが、今日ここでキミと出会ったのは、まったくの偶然ではないからね」
その瞬間、恐ろしい予感が過ぎった。
「まさか、俺の事をずっと尾行ていたのか?」
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