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 その者は、おもむろに机の引き出しからカッターナイフを取り出すと、自分の手の平を切り裂いた。手の平からしたたり落ちる血で原稿用紙を真っ赤に染める。 「この色を、匂いを、音を、感触を、すべて見せてあげられたら……寸分違わぬ形で読者に見せてあげたい……」  さらに真っ赤に染まってゆく原稿用紙。  更に歪んでゆくその顔。  だが、血の手形を机の上にベッタリと付けた時、その者の口角が再び上がった。 「ああ、そうか……私は何を勘違いしていたのだろう……」  口角がゆがむ。 「そうだ……私は……私の作品は……初めからそうすれば良かったんだ……この素晴らしき空想を具現化させれば……」  原稿用紙の血だまりが映し出すのは、どこまでも歪な笑顔だった。
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