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「やめて理子さん! 正気に戻って!」
清楚という言葉以外は見つからない程に可憐なその少女は、今は見る影も無く泣き叫んでいた。特徴的な黒い制服は、修道女のようにも見える。
血のような赤い夕日に染まる教室で、制服姿の少女が一人暴れ回っていた。奇声を上げて机を蹴り飛ばし、椅子を放り投げ、時には床にのたうち回る。そして、教壇の上に掲げられた十字架を叩き落とし、踏みつけ、罵り、続けて親の名を、知り合いの名を、目の前の泣き叫ぶ少女を罵倒する。
クズ、死ね、淫乱、カス、売女、ブタ、淫売、糞にまみれろ、糞、糞、糞糞糞糞糞糞糞糞糞――
床には、アルファベットが描かれた文字盤が粉々に砕け散っていた。
「望月さん! 内田さん! わたしどうしたら!」
教室の隅にも二人の制服姿の少女があった。一方は背が高く、もう一方は小柄な。二人は手を取り合い、上げる言葉も無く震えている。しかし、小柄な少女が絞り出すように言った。
「止めなきゃ……増田さんを止めなきゃ……!」
その時、暴れていた少女が突如として走り出した。教室の外に出ようとしたのだ。泣き叫んでいた少女は、咄嗟に暴れていた少女の腰にしがみついた。
「ダメッ! 理子さん! 教室を出てはダメ!」
それに反応するように、二人の少女も暴れる少女の腕にしがみつく。だが、なんと言う事だろう。暴れる少女は、腕にしがみついてきた少女達を振り払うと同時に投げ飛ばしたのだった。いくら二人の少女が軽いとは言え、同じような少女が人間を投げ飛ばすなど到底考えられない。狂気染みているとしか言いようのない、悪魔のような力……
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