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俺、田中幸村は武人でいるより商いのほうが向いているような気がしていた。
相撲で勝ったことがなく投げ込まれて土俵下に落とされること数知れず。
竹刀をいくら振っても兄のように腕っぷしの強い男にはなれない。
しかし、世間で言うところの名家という肩書きは商いの選択肢を亡きことにした。
そんな折、夢を見た。
炎のなか馬に跨り懸命に武将の首を刈っていた。
いい鎧にいい兜、刀を持っていた。名のある武将たちだと思われる。
そして集めた首を地面に置いて眺めているとその武人たちはスーっと動き出しシンクロしてひとつの眉毛になった。
名だたる武将たちは共通して眉毛が太いようだ。
武人たるもの眉毛の一つ太くなければならないのではないか。
俺を軽々と倒した歴代の強者たちはみんな自分より眉毛が太いではないか。
毎朝眉毛を西郷どんよろしく墨筆で書いてみることにしたのだ。
ここの地元では『弱腰の幸』とあざ笑われていたので眉毛を太くすることで強くなって見返してやろうと考えたのだ。
俺は日銭を握りしめ、村を出ることにした。
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