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「静朋史さん。変わった苗字ですよね。男の名前で静ってあまりいないし、苗字とは思いもしなかったからあだ名かと思いました。なんかおとなしい、静かな人っぽいから。あ、ほら、みなさんミーティングの時にあなたのこと静くんって呼んでたので、勘違いしたんです」
人がおとなしいかおとなしくないかなんて、会って間もないのになんでわかるんだ、とは思わなかった。
すぐに露呈してしまう。
静は自分が放つ暗い雰囲気を自覚していた。
だけど初対面の人間に、そんなにこやかになれなれしく話しかけられてもなにを返せばいいかわからない。
黙っていると主任が見かねたのだろう、苦笑いでフォローしてくれた。
「静くんはたしかにおとなしいけど、仕事はできるからね。あなたも女性看護師より同性の看護師のほうがいろいろ話しやすいでしょ? 患者や病棟のことでわからないことがあったら彼に相談して。静くんもわかることは須田くんに教えてあげてね。受けもつ仕事は違うけど、チーム医療でお互い協力していきましょう」
二人の手首をつかんだ主任に導かれ、須田の手と手が触れる。
陽に焼けた須田の手は、見た目の印象どおり触れると体温が高く、静の青白く冷たい手とは対照的だった。
まるで自分が死んでるみたい。
静は生きている人間の生々しさに触れた気がして身震いした。
「お世話になります」
笑顔で告げられ、まぶしさから思わず目をそらす。
小声でよろしく、とだけ返した。
力強く握ってくる接触から逃げるように手を引き、静はふたたび須田と目を合わすことはせず、その場をあとにした。
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