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暗い夜道との境が曖昧な自分の真っ黒なスニーカーをじっと見つめていると、繋がれた手とは反対の須田の手が、うつむいた頬に触れた。
こんなに激しくドキドキしている裏側で、須田の体温の高さに居心地のよさを感じている自分がゆるせなくなって、その怒りを須田にぶつけようと、にらめつけるように顔を上げたところで、キスされた。唇に。
その唇もやっぱり温い、と感じたのは一瞬。
「…………っ!」
驚いて口を開けそうになって留まる。
抵抗もできないまま、だけど、気持ちいいと意識しそうになる程度には長いくちづけだった。
「やらかいっすね、唇」
キスの直後に感想とか言うやつはバカだとか、心の中だけでも悪態を吐いていないと、顔がどんどん赤くなっていってしまう。
今が夜でよかったと思う。
「ねえ、だめ?」
甘い声で須田が尋ねてくる。
男相手はやっぱりだめか、と問うてくる。
正直に答える必要なんてなかった、と数分後には後悔していた。
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