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 白が多い院内のまぶしさは苦手だが、静は看護師の仕事が好きだった。  体力的にも精神的にもきついぶん、やりがいがある。  だけど誇りは持っていない。  自分のすることで人の命は救えないから。  医者がいて初めて、患者は救われる。  看護師は立派じゃない。  男で看護師なんてやってるのは底辺の人間だ。  自分が誰かを助けられるなんて思い上がるな。勘違いするな。  今から四年前。  約一年間にわたって何度も繰り返し吹きこまれた言葉は、その後もずっと静の心に植わっていて、もう今じゃ自分の考えみたいに存在している。 「痛てー!」  比較的近くから聞こえてきたその叫び声に、思考が途切れ、静の眉間に微かな皺がよる。  声の主はこの四人部屋の病室内にいるのか、もしくはすぐ外の廊下か。 「誰の声だ?」 「……さあ、誰でしょう」  術後のガーゼを交換していた患者からの問いに首を傾げつつも、静はその声が誰のものだかはっきりとわかっていた。  声質が独特だからだ。  音だけで判断すると低い部類に入る。  だけど話し声に弾んだような抑揚があるせいで、声全体が明るい雰囲気をまとっていた。
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