499人が本棚に入れています
本棚に追加
「立ち上がろうとしたら頭くらーっとして。あぶねーって思ってしゃがんでじっとしてたら、今度は鼻血がぼたぼた出てきて、全然血が止まんなくて」
立ちくらみがして鼻血が出るほどだ、どれだけ派手にぶつけたのか。
医療用カートからティッシュを取りだし須田の鼻に軽く詰め、ガーゼを濡らして鼻の付け根を冷やす。
静は須田の説明を聞きながらも着々と処置を施し、血液で濡れた須田の手と床をアルコールを含ませたナプキンで拭って、立ち上がった。
「二、三十分経っても血が止まらなかったら、先生に診てもらって」
「白衣の天使」
「は?」
「って感じ。静さん」
しゃがんだまま見上げてくる須田からすっと目をそらす。
須田が突然恥ずかしげもなくおかしなことを言いだすせいで、頬のあたりが熱を持った。
「意味がわからない」
そのままカートを押して病室を出たら、須田があとからついてくる。
「しばらく安静に」
「もう大丈夫っす」
「おまえ、八号室に用があったんじゃ……」
どうしてついてくるんだ。
扉に顔面をぶつけたことで、本来の用事を忘れてしまったのではないかと危惧したら。
「静さんが八号室に入ってくの見かけたから、追っかけたらこんなことに」
振り返ると、ティッシュを詰めた自分の鼻を指さし笑う。
通りすがりの女性医師が須田の顔を見て吹き出し、ひと言声をかけて去っていった。
最初のコメントを投稿しよう!