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四月の空気が苦手だ。
職場に新人が入ることで、ゆるみかけていた一年がリセットされ、新鮮な空気が漂う。
希望に満ちた真新しいものを見ると、まぶしくて目を背けたくなる。
それはきっと自分が汚れているからだと、静は思う。
ただでさえ病院の中は白が多くてまぶしい。
院内にいると白色のものがしょっちゅう目に入ってくる。
壁、天井、医者の白衣に、自分たち看護師が着用している制服も白一色だ。
ここでは血や嘔吐物排泄物で汚れたものはすぐさま廃棄・洗浄され、快適で清潔な白だけがいつも人の目につくようになっている。
「静くん、さっきはありがと。十号室のバイタルチェック行ってくれて」
「忙しそうだったので」
「ほんと助かる。あー静くんのおかげで今日も主任に怒られなくて済むー。あの鬼主任、十秒の遅刻で十分のお説教垂れるんだもん」
一年先輩の女性看護師は腕時計を確認すると、いつもサンキュ、と静の二の腕を叩いて速足でナースステーションへと向かった。
静も自分の腕時計に目を落とす。
陽に当たる機会の少ない自身の腕の生白さにすら目がチカチカする、夜勤明け間近の八時四十分。朝のミーティングのちょうど五分前。
総合病院の病棟看護師の仕事はハードだ。
日勤と夜勤があるため生活のリズムは狂うし、患者の急変やわがままで簡単に残業とストレスは増えていく。
男の静でも体力的にきつい時がある。
女性なら、なおさらだろうと思う。
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