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煙草を買いに
失踪者が残した最後の言葉は「煙草買いに行ってくる」が圧倒的に多いのだと、何かで読んだ。
手島とは最初からおかしかった。
再会したのは高校の同窓会。再会といっても、高校時代に話したことなんてあまりなかった。「手島」と「戸田」で席が前後だった時に、プリント後ろに回してとか、ノート提出してとか話した程度。だから、実質、出会いなんだろう。
「戸田ちゃん!」
私に声をかけてきたのは、手島の友人の川瀬だった。小柄で体育会系でよくしゃべる川瀬と背が高くて眼鏡で無口な手島。正反対のはずなのに、馬が合ったのか、高校時代も一緒にいるところをよく見かけた。凸凹コンビは健在なようだ。
「こいつかわいそうだからさー、いい子紹介してやってよ」
「別にいいけど。何がかわいそうなの?」
「手島、彼女に振られたばっかなんだよ」
「なんで?」
手島に問いかける。
「何考えてるかわからない、つまんない、って」
ぼそりと答えられた。あまりにも淡々としすぎてて、思わず笑ってしまった。
「あはは、仲間だ。それ、私もよく言われる。今日も、振られてデートの約束がおじゃんになったから、来たんだよね」
「そうだったんだ?」
川瀬が右の眉を上げ、一瞬手島を見、私に目線を戻す。
「うん、そう。傷心で、一人で過ごしたくなかったからさー、幹事に連絡取って急遽参加させてもらった」
「じゃあさ、手島と失恋トークしてやってよ! 憂さ晴らしに」
「えー、手島無口だから、私が一方的にしゃべっちゃうことになるよ?」
「戸田がよければ、俺はそれでいい」
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