青春、ひどく苦い

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 教室には、制汗剤の匂いが漂っていた。人工的な夏の匂いだった。窓から入る風はいやに湿っていて、切ったばかりの髪が顔に張り付いた。  前の席ではユカリが袖を捲り、ノートを扇いでいた。バタバタと文字の残像が空気に残って見える。黒板の前の先生はすっかり短くなったチョークを器用に手元で投げながら生徒を見ていた。まだ問題を解いている生徒がいるようだ。  蝉の声が遠くに聞こえる。風が吹いた。  私はこの時間が特別に好きだ。時間は絶えず進んでいる。だが、そこにあるのは確かに瞬間だった。切り取られ、前後のない瞬間の塊。きっと、数年後にはより鮮やかになる。  私は未来の私に視点を重ねては胸に刺さるような郷愁を味わう。それはあるいは私なりの自傷行為だ。私は未来のために今を犠牲にしているのかもしれない。  私の青春は、少しいびつだ。自嘲気味にそんなことを思った。
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