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「ショウコ、帰りどっか寄ってく?」
終業の鐘が鳴るや否や、ユカリは振り向いて私に尋ねた。私は板書を書き写す手を止め答えた。
「そうだね、クレープとか?」
別にクレープが特別好きなわけではなかった。だがそれでも具体的に答えたのは、自分の意志があるという証明のためだった。私が意見を言うとみんなはいつも喜んだ。
「良いね。 じゃあ私みんなに声かけてくる」
ユカリはそう言うと椅子を軋ませて立ち上がった。いつもと同じ、何度も繰り返し見た動作だった。きっと呼ばれた三人がもう十分程で私の席に集まる。
私は鞄に教科書、ノート、筆箱を詰め込んだ。そしてまだユカリ達が来ていないことを確かめ、スケッチ用の小さな手帳をスカートのポケットに入れた。
これは、これだけは誰にも見られたくない。そう思った。わずかに掴んだ青春の形は、ひどく後ろめたく、四角く、頼りないものだった。
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