青春、ひどく苦い

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 中心街では賑やかな音楽が流れ、夏の熱気と汗、香水、食べ物の匂いが混ざり合っていた。それらが脳の稼働を妨げる効果を持っているようにいつも私は感じる。カラス除けの高周波の音の不快さに顔をしかめながら、私は三人の後ろを歩いていた。 「ショウコ、今日の日本史寝てたでしょ?」  ユカリが振り向いてニヤニヤとした顔で聞いてきた。高校三年の夏。学年やクラスだけでなく、私達の中にも勉強をする人間を評価するべきだといったわざとらしい空気が漂っていた。  私はそのどうにも胡散臭い雰囲気が嫌いだった。ユカリはつまり、私のそういった不真面目な態度を友人たちの前で明らかにすることによって、自身の優位を獲得しようとしているようだ。  受験期になり、人間関係と校内の評価、不可視のカーストめいたものが複雑に関係するようになっていた。  「ちょっとうとうとしちゃって」  私は作った苦笑いを浮かべた。情けない。 「志望校C判定なんでしょ?やばいって」  ナオが続く。彼女は人に悪意を向ける時、絶対に顔を見なかった。ナオは推薦で大学に行くことがほとんど決定していた。  鞄から覗く赤い布のブックカバーは新しい。推薦の話が決まってから読書好きを騙っていると、誰かが嫌そうな顔で言っていたのを思い出した。ナオはどうも、昔からそういった浅ましいところがあった。  私は聞こえないふりをしてクレープを齧り、道ゆく人々を観察した。うちの高校の同学年の生徒もちらほらいた。  そんなに勉強をするのが偉いと思うのなら外で遊ばず、家に帰れば良いのに。心の中でついた悪態は、ストレスを加速させるだけの効果しか持たなかった
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