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そんな日々の中、離宮に一人の男が訪ねてきた。イールソー大臣相談役補佐である。
彼はカミーリアが皇太子となって以降は皇位継承権三位のままであったものの、絶対に自分に皇位が回ってくることはないと分かっているため、大臣相談役補佐の給金で貴族らしい放蕩と浪費に溺れた生活を送っていた。
イールソーは揺篭の中で眠るティキランに手を伸ばしたり、いないないばーなどをしてあやしていた。ティキランと言うのは、最近やっと決められた赤子の名前である。
「久しぶりね、イールソー」
「ええ、ベアトリーチェ皇太子妃殿下」
「可愛いでしょ? えっと…… あなたからすれば遠い従兄弟にあたるのだから、この子を可愛いがって上げてね?」
イールソーはティキランの頭を優しく撫でながら、冷たい口調で述べた。
「ええ、赤子というものは『血の繋がり』がなかろうと可愛く見えるものです。それが貴族の子であろうと、平民の子であろうとね。不思議なものです」
「これは人として当然のことじゃないかしら? 丸みのあるものは可愛く見えると何かの本で読んだことがあるわ。庇護欲を擽って世話をして貰えるからこその赤ちゃんと言うものよ」
「いえ、そういうことではなく。ボクとは『血の繋がり』が無いのに可愛く感じることの方が不思議と申したのですよ?」
「お父様であるボード皇帝の血ですよ?」
「そのような血が一滴も流れていない子をよくも孕み産めた。褒めてあげたい気分ですよ」
ベアトリーチェは全身の血の気が引いた。まさか、こいつは「知っている」と言うのか? 四人の公妾のうちの誰かが裏切った? いや、それはありえない。イールソーはここ最近は城へは訪れていない故に、四人の公妾には会っている筈がない。
色々な可能性を考えるが思い倦ねがない。とりあえず、白を切りながら情報を集めることにしよう。全てはここからだ。ただ「褒めて上げたい」と言っている以上は「敵」ではない筈だ。ベアトリーチェは冷静を装いながらニッコリと微笑んだ。
「あらあら、あなたは腹違いとは言えカミーリアとは同じ血を持つボード皇帝の血を持つ兄弟じゃない? そのカミーリアの子なんだから従兄弟になるじゃないの。腹違いの兄弟の子だからピンと来ないの仕方ないかな?」
イールソーはふうと溜息混じりに軽く嘲笑った。そして、徐に口を開いた。
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