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魔王を倒し、世界を救った百人隊は母国であるギャレン国へと凱旋帰国を果たした。百人隊は凱旋帰国以降、連日連夜の終わらぬ宴への参加を強制された。
「世界を救った英雄に感謝を伝えたい」と言う王族や貴族が世界中から来訪し、宴を止めることを許さなかったのだった。
その宴の中、大事故が起こってしまう。なんと、伝説の勇者フィンレーが祝いの花火の爆発に巻き込まれて亡くなってしまったのだ。
その翌日より、連日の宴は伝説の勇者の葬式へと催しを変えた。
全世界の人間たちの涙の理由も変わってしまった。世界が救われた歓喜の涙が、勇者を失った哀悼の涙になってしまったのである。
特に尽きぬ涙を流していたのは、伝説の勇者フィンレーの妻であるベアトリーチェだった。フィンレーとベアトリーチェは幼馴染でお互いに好き合っており、結婚したのは魔王討伐の遠征中のことであった。結婚式も挙げることは挙げたのだが、花婿衣装も花嫁衣装も普段から纏っている軍服のまま、結婚指輪もなし、教会も魔王の脅威に晒されていた国にあるものだけに改築工事中の荒屋同然、神父の前で夫婦となることを誓うだけの略式も同然の簡素な結婚式であった。
ベアトリーチェは喪服を纏い毎日泣き通し。目を閉じ瞼の裏に浮かぶはフィンレーと過ごした毎日、特にやっとのことで二人で一人となれた結婚式のことは無限に頭の中を巡り廻る。
そんな失意の底にいたベアトリーチェに献身的に寄り添う者がいた。ギャレン国との同盟国であるボード帝国の王族の血を引く大富豪の「カミーリア・ヴィ・ボード」である。
カミーリアは王族の血を引くものの、皇位継承権は4位と継承権争いのレースからはほぼ脱落しているようなもの。本人も王族の威光を使っての事業運営に邁進し、ボード帝国内でも十指に入るぐらいの大富豪として金と女と酒に溺れての放蕩生活をしているのであった。
魔王との戦時中は金に物を言わせての疎開先を転々とし、只管に自分の命を守ることを優先していた。世界中の各国の王族や貴族や大富豪は魔王と戦う百人隊に出資してきたのだが、カミーリアは鐚一文も出さずに逃げ回るだけであった。それ故に百人隊からの評判は悪い。
カミーリアであるが、世界が平和になった後の宴にはチャッカリと出席し、これから先の事業のため百人隊に媚びを売りに来ただけである。軽く自分の名前だけを売ってさっさと帰るつもりだったのだが、祝宴会場にて運命の出会いを果たす。
なんと、ベアトリーチェに一目惚れしてしまったのだ。カミーリアは正妻こそいないが、春夏秋冬それぞれの季節ごとに四人、つまり十二人の愛人を持つ好色男。基本は女好きであった。
多くの愛人がいても、気に入った女を見つければ自分のものにせずにいられない困った性癖を持ち、金にものを言わせて自分の愛人にしてしまうのだ。
先述の十二人の愛人はこうして増えに増えた結果である。
当然、カミーリアはベアトリーチェに求婚をするのだが、ベアトリーチェはフィンレーの妻であるために断られてしまう。金で釣ろうとしたが、ベアトリーチェのフィンレーに対する愛は不動のもの。金で動く筈もない。
次にフィンレーにも「お前の妻を寄越せ、金はいくらでもやる」と交渉したのだが、当然拒否されてしまう。
夫に妻を寄越せと言えば殴られても仕方ないのだが、腐ってもカミーリアは同盟国ボード帝国の貴族。殴ってしまえばギャレン国とボード帝国との戦争の切掛になるかもしれないために、拳を血が流れる程に握りしめ、奥歯をギリギリと音を出す程に噛み締めて耐えるのであった。
夫婦の意思が駄目なら、王だ。カミーリアはギャレン王に「ベアトリーチェを我が妻に!」と交渉を行った。フィンレーは伝説の勇者とは言え、一兵卒。王の勅命であれば逆らうことは出来ないと考えたのである。
ギャレン王としても断り辛い立場ではあるが、それを突っぱねた。偏に世界を救った我が国の英雄に対して不義は出来ないとして、義理を守ったのである。
万策尽きたかと思った矢先に起こったフィンレーの事故死、カミーリアにとっては絶好の好機であった。フィンレーを失ったベアトリーチェの心の隙間に入り込み、そのまま妻にしてしまおうと考えていたのであった。
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