2nd movement 皇帝が生まれた日

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 そして、月満ちて十月十日(とつきとおか)…… ベアトリーチェは離宮にて我が子を産み落とした。天を突き破るような産声が離宮中に響き渡る。血の雫を纏いし赤子の性別は…… 「皇子で御座います!」 その報告は久々に離宮へと訪れていたニセアーニャに行われた。 ニセアーニャは「何故流れずに今日を迎えた!」と困惑しつつイライラのし通し、同席していたカミーリアに「あなたはこれから父親なのですよ、その自覚を持った上で次期皇帝としての成長を楽しみにしていますよ」とだけ言い残し、さっさとボード城へと帰ってしまった。 侍女に「皇子の顔を御覧になさらないのですか?」と尋ねられたのだが、何も答えなかった。  本来、こうした王侯貴族の赤子の授乳は慣例で乳母が行うものである。 ベアトリーチェは一切授乳が出来ないことをアリエッタや公妾達から聞いていた。そして、乳母には出産経験のある公妾達をローテーションで回すことも決められているのであった  しかし、ベアトリーチェはそれを拒否し、自分で授乳することを希望した。平民の家に生まれ、乳母と言う存在を今の今まで知らずに育っている故に、他人の乳を子に飲ませるということが想像出来なかったからである。  通常であれば、王侯貴族の慣習上一蹴されるのだが、テンガアールはその気持ちを察し、この子に乳を飲ませるのはあたしの役目ではない。と、乳母の役目を放棄し、ベアトリーチェに子を渡したのである。他三人の乳母候補(公妾達)も考えは同じで、役目を放棄するのであった。  乳母に授乳させずに自分で授乳させると言うことは王侯貴族達にとっては考えもつかないこと。父親であるカミーリアはもちろん、祖母であるニセアーニャにとっても青天の霹靂。 その話を聞いた途端に泡を吹いて倒れたと言う。  皇子誕生は国が揺れた。王侯貴族の「ごく一部」は「平民の血が入るなど」とはと非歓迎ムード。それ以外の者達は我らの皇太子に子が生まれたと歓迎ムード、平民の血は入っているが半分は貴族の血であるから構わないとの判断であった。平民達は「流れる血」よりも、我らが皇太子妃ベアトリーチェ様に子が生まれたと言う嬉しさの方で気持ちがいっぱいであった。単純に新しい命が生まれたことに対する祝福である。  そして、行われるは連日の宴。ニセアーニャは「何がめでたいものか、バカバカしい」とだけ言い残し、申し訳程度の社交辞令じみた「祝いの書簡」を書き残して、他国の外遊に出ていってしまった。  カミーリアは公務を側近に任せ、我が子を毎日猫可愛がり。ベアトリーチェはその様を見て口角を上げるのであった。
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