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「時にベアトリーチェ皇太子妃殿下、子胤と言うものを見たことがございましょうか」
「女子にこのようなことを聞くものではありませんよ? あなたのような若い男子の品性を疑われますよ?」
普通の男であれば、女性に品性のない失言を行ってしまったと引く場面である。
しかし、イールソーは引くことなく話を続けた。
「虫眼鏡の仕組みと言うものをご存知でしょうか。ガラスに特殊な加工をすることによってガラス越しに映るものを何倍の大きさに見ることが出来るのです。そのガラスを『レンズ』と申します」
「いきなり何かしら?」
「そのレンズ、平行に二枚合わせると映るものの大きさは更に大きくなるのです。そうですねぇ、塩や砂糖の粒でさえも形がハッキリと大きく見えるようになるのです」
「何十倍、何百倍もの大きさにも見えるようになると言いたいの?」
「ボクはレンズを二枚、平行に固定された形を維持出来るような道具を作り上げたのですよ。微細なるものを見るための虫眼鏡…… 見微鏡と名付けました」
「何だか良くわからない『玩具』を作ったものね。売り出すのかしら?」
「いえいえ、一台作るのに投石機一台と同じぐらいのお金がかかりましたもので。試作の一台で終わるかと」
「何? 量産体制にするつもりかしら? 話から言って花の花粉も一粒一粒がハッキリ見えるようになるのでしょう? そうなれば神が作り給いし自然の謎が解けるやも知れませんわね? もしかしてお金の無心に来たのかしら? それなら言うのはあたしではなくてよ?」
「ふふふ。何故、男女が交わることで子が成すのか。男が女の腹にある『子を育てる宮殿』に子胤を入れることなのは最早常識。子胤と言うものがどのようなものか気になったので、見微鏡にかけてみたのですよ」
「乳牛の牛乳のように真白であったのでは?」
「いえいえ、夥しい数の細身のオタマジャクシが泳いでおりました。おそらくではありますが、あのオタマジャクシが『子を育てる宮殿』の中で人の形を成すことで、人となるのでしょう。これが、人間の誕生です」
「聡明ね。あたしも麦の苗を植える時にはオタマジャクシをいっぱい見てきたわ。あれが人の形になるなんて信じられない話。聖典に書いてある『神が泥を捏ね上げて人を作り上げた』と言う一文に真っ向から逆らっていることは気になるけど」
それを聞いたイールソーは「フン」とベアトリーチェを鼻で嘲笑った。
「聖典なんか御伽噺ですよ。それとも子胤とは白い泥で、女の腹の中で神が泥を捏ね上げて人を成すとでもお思いですか?」
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